現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

基礎工事

3)既製杭

2024/02/01

中掘り拡大根固め工法での既製コンクリート杭の低止まり

工事の概要とトラブルの内容

水機場の基礎として、中堀り拡大根固め工法によるPHC杭を施工した。杭の仕様は、φ700mm、L=34.0m(4本継ぎ)、掘削長42.0mである。

地盤の概要は、GL-5.5mまで埋土、GL-8.7mまでシルト、GL-15.5mまで細砂、GL-22.0mまでシルト混じり細砂、GL-25.4mまで細砂、GL-34.6mまでシルト、GL-37.4mまで細砂、GL-41.0mまで硬質シルト、その下に支持層となるN値50以上の細砂層が分布していた(図-1)。

図-1 杭の仕様および土質柱状図図-1 杭の仕様および土質柱状図

杭の施工に際しては、杭長が長く中間層に細砂層が存在し、杭施工時の周面摩擦の増大による沈設不能等のトラブルが懸念されたため、通常より厚い12mmのフリクションカッターを使用した(図-2 フリクションカッターの厚さの標準値と取付例 参照)。また、杭頭深度が深く、施工当時は杭と接続できるヤットコの調達が難しかったこともあり、最も一般的な杭頭に被せるだけのヤットコを使用して施工を行った。
根固め部の掘削・撹拌が終了し、杭を所定の深さまで沈設したのち、アースオーガを引き上げた。アースオーガ引き抜き後は、設計杭頭深度が7m以上と深く、杭頭に被せるタイプのヤットコでは杭頭位置の確認は困難と判断し、行わなかった。その後、機場の掘削工事を行ったところ、全18本のうち2本の杭で、杭頭が所定の位置より約40~60cm低くなっていることが判明した。

図-2 フリクションカッターの厚さの標準値と取付例図-2 フリクションカッターの厚さの標準値と取付例

原因と対処方法

杭の沈下の原因としては、以下の2点が想定された。

①当該現場では、通常より厚い12mmのフリクションカッターを使用したため、杭沈設後、短い時間では杭の周面摩擦力が発揮されず、根固め液注入以降に杭の自重沈下が発生した。

②支持層直上のシルトがアースオーガに付着し、アースオーガ引き上げ時に吸引現象(根固め部及び杭下端付近のソイルセメントが杭中空部に引き上げられる現象)が発生した。この時、使用していたヤットコが杭頭に被せるだけのものであったため、杭が沈下したことに気付かなかった。アースオーガ引抜き後の杭頭位置の確認も行わなかったので、掘削段階まで杭の沈下に気付かなかった。

当該杭の低止まりへの対応については、フーチングを一部掘り下げ、杭頭補強を実施した。
また、今後の中掘り拡大根固め工法を類似の地盤条件で施工する場合のトラブル防止対策としては、以下があげられる。

・フリクションカッターの厚さ
事前の地盤調査結果だけでなく、試験杭および本杭の施工結果を踏まえて、最適なフリクションカッターの厚さを決定する。

・アースオーガ引き上げ時の吸引現象防止対策
根固め液注入後のアースオーガの引き上げは、ゆっくりと行う(速度の目安:0.5~1.0m/min程度)とともに、引き上げ速度に応じてアースオーガ引き上げた体積分の水量を先端から注入する。

・ヤットコの仕様
ヤットコは、杭と連結できるもの(図-3)を使用し、アースオーガ引き抜き後も杭の沈下がないことを確認する。設計杭頭深度が深く、長尺ヤットコを使用する場合でも、杭頭位置の確認を必ず行う。

図-3 ヤットコの概要図図-3 ヤットコの概要図

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

フリクションカッターの厚さは、事前調査だけでなく、試験施工や本施工を通じて再検討したうえで決定することが重要である。また、支持層の直上に粘性土層がある地盤においては、吸引現象がおこりやすいので、アースオーガの引上げ時の注意事項を遵守する。
さらに、アースオーガ引き抜き後の杭頭高さの最終確認も必ず行うことが重要である。

参考文献

1) 公益社団法人 日本道路協会:杭基礎施工便覧 p.205 平成27年3月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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