土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
土工事
2)盛土・軟弱地盤
2020/02/27
鋼矢板土留めを用いて共同溝を構築した後、躯体の周りを山砂で入念に転圧して埋め戻して、鋼矢板を撤去する際に発生した事象である。現場は軟弱地盤であり、その土層構成は図1に示すように地表からN値約10の盛土が2m、N値1~4の有機質シルトが4m、N値2~5の砂混じりシルトが4m、さらにN値50以上の砂礫層が続いている。鋼矢板(Ⅳ型)をバイブロハンマ工法によって順次引き抜いたところ、矢板近傍の地盤が10~15cm沈下していることに気づいた。さらに周辺を測量したところ、沈下は矢板近傍で最大となり、躯体がない側(図中右側)では、矢板から離れるに従い小さくなり、10m位離れるとほぼゼロであった。一方、躯体側では、躯体構築位置(鋼矢板から2.5m)での沈下は概ねゼロであった。
鋼矢板の引抜きによる沈下は、地盤内にできた引抜き跡の空隙が原因で発生する。この空隙の体積は、引き抜いた鋼矢板の体積に相当する。ただし、粘性の強い土質では、鋼矢板のフランジ部分に付着した土が鋼矢板とともに地上に上がってくる「共上がり」が発生することがあり、空隙をさらに拡大させる。本事例でも一部の鋼矢板で共上がりが発生したため、沈下量が大きくなったと思われる。作業手順では、鋼矢板引抜き後に空隙に砂を充填することになっていたが、地盤が軟弱であったことに加えて、引抜き時のバイブロハンマの振動により、地盤が変形して押し出され、空隙が閉塞したため、当初想定した量と比べごくわずかな量の砂しか充填できなかった。なお、本現場では、幸いにも沈下範囲内の地盤上に構造物等がなかったために、既設構造物への影響はなかったが、もしも沈下の影響を受けやすい構造物があったらトラブルになっていたであろう。なお、構築した躯体には、沈下や傾斜はみられなかったため、沈下した範囲を整地して工事は無事に完了した。
鋼矢板の引抜き作業では、土留め内の掘削工事中よりも周辺地盤が沈下する場合がある。特に、軟弱地盤では注意が必要である。鋼矢板の引抜きの影響が及ぶ範囲は、図2に示すように鋼矢板先端から45度の範囲内だと言われている。その範囲に沈下の影響を受けやすい構造物がある場合には細心の注意を払う必要がある。さらに、今回土留め工で施工した地下構造物は、この影響範囲にあるが、床版(躯体底面)の大部分が影響範囲外であったこともあり無被害であったが、構造物自体の沈下・傾斜が懸念される場合には事前の対策が必要である。
比較的良好な地盤では、鋼矢板を1枚引き抜く度に速やかに砂を充填して水締めすることが原則とされている。また、砂の代わりに、CB(セメントベントナイト)を注入して固化することも多いようである。空隙をそのままにしておくと地盤の押出しにより砂が充填できなくなる場合があるので注意が必要である。空隙に砂が充填できない場合には、速やかに施主に報告することも重要である。また上記の共上がりを防ぐには、摩擦低減材を鋼矢板に塗布する方法1)が実用化されている。さらに、鋼矢板の引抜きと同時にあらかじめ鋼矢板に設置していた充填管の先端部より固化材を注入・充填する方法2)も効果があるようである。加えて、構造物の重要度、変状が発生した場合の影響、トータルコストを勘案して、鋼矢板をそのまま残置することも選択肢として考えられる。
1)例えば土木用摩擦低減材
http://www.mgb.gr.jp/gohda/products/construction/frictioncutter/
2)土留部材引抜同時充填工法 研究会
https://www.hikinuki.jp/characteristic/
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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