現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

土工事

4)土留・その他

2021/05/27

底盤地盤改良の不具合で土留め掘削中に出水

工事の概要とトラブルの内容

レキャストボックスカルバートの水路を開削工法で敷設する工事(図1)において、土留め壁(鋼矢板Ⅳ型、L=14m)で囲まれた部分を深さ約10mまで掘削した段階で異常出水が発生した(図2)。なお、当該区間の床付け深さは11mで、地下水位の高い砂質地盤であったため、遮水対策と土留め壁の変形抑制および支持力増加を目的として、底盤部には高圧噴射撹拌工法(改良径2m)による地盤改良(厚さ2 m)を実施していた。底盤地盤改良の平面図を図3に示す。

図1 地盤条件と開削工事の概要(切梁支保工は記載省略)図1 地盤条件と開削工事の概要(切梁支保工は記載省略)

図2 出水トラブル発生時の掘削状況(切梁支保工は記載省略)図2 出水トラブル発生時の掘削状況(切梁支保工は記載省略)

図3 掘削底盤の地盤改良の平面図図3 掘削底盤の地盤改良の平面図

原因と対処方法

出水の原因としては、底盤の地盤改良の遮水不良の他に、鋼矢板(継手に止水材を充填)の遮水不良も考えられた。しかし、出水箇所が掘削面の中央付近で鋼矢板から離れていたことから、地盤改良の遮水不良が原因であると判断した。設計図面では地盤改良を行った位置は細砂となっていたが、おそらく玉石等が存在したため、図4のように改良不良が生じたのではないかと想定された。高圧噴射撹拌工法は、過去の実績等に基づいて土質条件に応じた改良径が設定されているが、想定を超えた大きな礫等を含む地盤では高圧噴射が礫等に当たってエネルギーをロスして所定の改良径が得られないことがある(図5)。そのようなケースでは、特にラップ施工の接合部で不具合が起きやすいので注意が必要である。

今回の出水はこの1か所だけであったので、出水がほぼ止まるまで掘削土を約3m埋戻してから、出水位置の地盤改良の直下に薬液注入工法による遮水層(層厚2m、平面積5.4m×5.4m)を新たに施工することで対処した(図6)。

図4 高圧噴射撹拌工法の改良不良の想定図図4 高圧噴射撹拌工法の改良不良の想定図

図5 土留め掘削中の出水トラブルの想定図図5 土留め掘削中の出水トラブルの想定図

図6 薬液注入工法による止水対策の概要図6 薬液注入工法による止水対策の概要

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

粒径のそろった細砂地盤における掘削工事では、地下水位が高いと、遮水工の小さな欠陥部でもパイピングを伴った出水トラブルにつながりやすい。高圧噴射撹拌工法は砂質土での実績も多く、止水対策としても信頼性の高い工法である。だだし、砂礫地盤では砂質土に比べて改良径が小さくなるので注意が必要である。たとえば、高圧噴射工法の一種であるジェットグラウト工法のマニュアル1)では、砂礫については、砂質土での有効径の10%減を基本とし、原則として試験施工等をすることが望ましい、と注記されている。

今回のトラブル地点の改良対象地盤は細砂を想定していたが、地盤調査ボーリング位置からは15m以上離れていたため、実際には玉石等を含んだ礫混り細砂であった可能性が高い。地盤にはバラツキがあるという点を十分に認識し、追加の地盤調査や高圧噴射工法の試験施工等を事前に行えば良かったと思われる。また、地盤改良の仮設設計においてもリスクマネジメントの観点から、コスト最優先の最適設計ではなく、改良径や改良層厚等の設定に余裕代を見込むことが望ましい。

参考文献

1) 日本ジェットグラウト協会:ジェットグラウト工法 技術資料(第25版),平成29年9月

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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