現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

コンクリート工事

4)打設準備(型枠・鉄筋組立等)

2021/06/29

インバートコンクリート打込み翌日に
仕上げ面より出水

工事の概要とトラブルの内容

該工事は、一般国道の自動車専用道路のトンネルを建設するものであり、図1に示すような構造である。坑口部および地山等級Dの区間にはインバートを設置する設計であった。6月のある日、坑口付近のインバートコンクリートを、覆工の型枠支保工の長さに合わせて10.5mで打ち込んだ。その翌日、作業員が養生を行うために現場に来たところ、図2に示すようにインバートの中央付近(道路中央付近)のコンクリート打込み面の数か所から水が湧出しているのを発見した。

当該インバートコンクリートは、厚さ450mmの鉄筋コンクリートであり、コンクリートの配合は24-8-40 BB(呼び強度24N/mm2、スランプ8cm、粗骨材最大寸法40mm、高炉セメントB種)であった。

図1 トンネルの構造概要図1 トンネルの構造概要

図2 インバート打込み面からからの出水図2 インバート打込み面からからの出水

原因と対処方法

現場の担当技術者によると、コンクリートの打込みおよび表面仕上げの作業は順調に行われ、特段の異常は認められなかったとのことであった。インバート表面からの出水の原因を探るため、直径10cmのボーリングコアを採取した。その結果、写真1に示すように、床付け面よりコンクリート打込み面まで水みちが貫通していることが判明した。したがって、出水した原因は、コンクリートが地下水によって洗い出されたと推定した。すなわち、インバートコンリートの打込みによって湧水が止められたことによって地下水位が上昇し、それに伴ってインバートコンクリート底面に作用する水圧が大きくなり、浸透流によりコンクリート中の細かい粒子が洗い出されて水みちを形成し、それが上面まで達して出水したものと推定した。いわゆるパイピング現象である。当該トンネルは、写真2でも分かるように吹付けコンクリート面に湧水処理材としてフィルターマットが多く設置されていることからも、湧水量が非常に多いことが分かる。

発注者と協議した結果、インバートコンクリートからの出水箇所が複数あったことや、単に止水対策を行うことで地下水位の上昇などによる悪影響が懸念されたため、施工したインバートを取り壊して施工承諾で打ち換えることにした。再施工に際しては、図3に示すように、インバートの下にフィルター材を敷設するとともに仮排水用の有孔管を設置して湧水をインバート上面に排水する方式を採用した。このような仮排水用の有孔管を設置することによって、その後のインバートコンクリートは順調に施工することができた。なお、中央排水工は、図4に示すように仮排水管と接続して継続的に排水できるようにした。

写真1 採取したコンクリートコアの状況写真1 採取したコンクリートコアの状況

写真2 トンネル内部の状況(インバートコンクリート施工後)写真2 トンネル内部の状況(インバートコンクリート施工後)

図3 仮排水用有孔管およびフィルター材の設置による対策概要図3 仮排水用有孔管およびフィルター材の設置による対策概要

図4 仮排水用有孔管と中央排水管との接続図4 仮排水用有孔管と中央排水管との接続

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

都市部などでの防水型(非排水構造)トンネルを除いて、湧水は停滞を生ずることなく速やかに外部に排出させるのが原則である。当該道路トンネルでは、中央排水工をインバートの上部に設置して、覆工背面の湧水はフィルター材や排水管による横断排水工で中央排水工に導水する構造として設計されていた。しかし、道路トンネル技術基準(構造編)・同解説(日本道路協会)には、「インバート施工時に湧水が多い場合には、インバートの下に仮排水工を併設している。」との記述が解説にある。つまり、湧水が多いトンネルの場合には、インバートの下に仮排水工を設置してからインバートコンクリートを施工することを推奨している。

当該トンネルの工事関係者は、経験豊富な技術者が多く、湧水が多い場合にはインバートの下に仮排水工を設置することを知っていたものの、仮排水工を設置するほどの湧水量ではないと判断したようである。「湧水が多い場合」とは、どの程度なのかの具体的な目安となる数値が無く、また、今回のようなトラブル例も公表されているものがないため、仮排水工を設置するか否かの判断が難しいといえる。過去の事例、経験および工事関係者の判断が重要となる事例であり、今後の工事に参考になれば幸いである。

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

新着記事

現場探訪

2024/04/01

島根県の建設業の未来を創る。担い手確保と育成へ向けた、島根県土木部の取り組み。

日本における少子高齢化は、統計上も今後もさらに加速することが予想されており、これに伴う生産年齢人口の減少も、今後ますます...

現場の失敗と対策

2024/04/01
コンクリート工事 4)打設準備(型枠・鉄筋組立・その他) 水中コンクリートの打込み中に型枠がはらみ出し!

現場の失敗と対策

2024/04/01
コンクリート工事 4)打設準備(型枠・鉄筋組立・その他) 中掘り拡大根固め工法での既製コンクリート杭の低止まり

今月の一冊

2024/04/01

『現場代理人の育成ガイドブック【知識と実践】』

現場代理人の〝腕〟次第で、工事の生産性や安全性だけでなく、企業の利益や信用にも影響がおよぶ。だからこそ、現場代理人の確保と育成は、建設会社の発展のための...

建設ディレクター

2024/04/01

現場をバックオフィスで支える“救世主”~第一回 建設ディレクター協会・新井恭子理事長

罰則付き時間外労働の上限規制の適用が、建設業にも開始されました。まだ長時間労働の削減に取り組めずにいるのであれば、...

トピックス

2024/04/01

建設業の働き方改革に向けた近畿地方整備局の取り組み ~「受発注者コミュニケーションガイド」等の作成~

国土交通省近畿地方整備局は、今年(2024年)4月から「罰則付き時間外労働の上限規制」が適用されることを踏まえ、働き方の改革を促進するための「土木工事書類作成スリム化ガイド」...