
土工事
土工事
2)盛土・軟弱地盤
2025/12/01
令和6年能登半島地震では、能登半島の大動脈である能越自動車道路において多数の盛土被害が発生して大きな交通影響が生じた。国土交通省の調査では、のと里山海道(徳田大津IC~穴水IC区間)において、2車線区間(約21km)では16件の盛土崩壊が発生し、うち交通機能が全喪失に至った箇所が9件であったのに対して、4車線区間(6km)では5カ所の盛土崩壊が発生したが、交通機能の全喪失に至った箇所は0件であった。
国土強靭化計画においても『高規格道路のミッシングリンク解消及び4車線化、高規格道路と直轄国道とのダブルネットワーク化等による道路ネットワークの機能強化対策』が「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の施策の一つに位置付けられており、高規格道路(有料)の4車線化優先整備区間(約 880km)の事業着手率を令和7年度までに約 47%という目標を掲げて進められている。1)
本稿では、4車線を目的とした軟弱地盤上の盛土の拡幅に際して、地盤改良の施工時に大変形が生じた事例について紹介する。
軟弱地盤上に構築された道路盛土を拡幅する場合、既に築造されている道路盛土(以下、一期盛土)については地盤改良などの軟弱地盤対策が講じられる。軟弱地盤上の盛土区間では、軟弱地盤対策に大きなコストがかかり、また軟弱地盤対策は、事業化段階でのコスト増額の大きな要因の一つであることから、極力コストを縮減した対策が検討される。近年は、ある程度の沈下や変形を許容する対策である、低改良率地盤改良や圧密促進工法が採用されるケースも多い。
拡幅盛土の場合、拡幅で新たに築造される盛土(以下、二期盛土)直下の軟弱地盤については、用地買収が済んでいなければ軟弱地盤対策は講じることができず、既に用地が買収されている場合でも地盤改良のような対策ではなく、経済性を考慮して他工区で発生した盛土材を用いたプレロードなどの対策に留まることが多いと考えられる。
当該現場の概要を図1に示す。当該現場は近隣を流れる大河川の旧河道にあたり、事前の調査の段階では、深さ45m程度にN値35程度の砂層が存在し、そこまでは軟弱層が続いていると考えられていた。実際は砂層の下に厚さ5m程度のN値3程度の砂混じりシルト層が存在したが、これは事故発生後の調査で初めて判明したものである。
一期工事は、盛土高は12mで、現地発生土であるローム質粘土で築造され、のり勾配は1:1.9であった。軟弱地盤対策として、盛土直下に沈下対策としてプラスチックボードドレーンを用いた圧密促進工法が採用されていた。また将来の拡幅計画に備え、拡幅側の盛土のり尻付近には、一期盛土のすべり抑制と二期工事の先行改良の目的で、深さ18m付近まで、深層混合処理工法による地盤改良を行っていた。粉体噴射撹拌工法による格子状改良で改良率は50%であった。
二期工事は、一期工事の終了からおよそ8年後に着手された(図2)。二期工事にあたっては、当該盛土は橋梁に隣接していたことから、橋梁方向(縦断方向)への二期盛土の側方流動を防ぐために追加の地盤改良補強を行う必要があった。そこで、まず追加の地盤改良の施工ステージとするために高さ8m程度まで盛土を築造し、その上を作業スペースとして地盤改良を行った。追加の地盤改良はスラリー式機械撹拌工法のエポコラム工法を採用した。機械撹拌による接円配置として、改良率は約80%とした。なお、この際に地盤改良施工に先行して供用中の路面への影響を防ぐために、のり肩部に長さ12mの縁切り矢板を盛土底部まで打設した。
施工ステージからエポコラムを施工中、ステージが大きく沈下変形したことから、工事を急遽中止して対策を検討した。
変状発生後、現地で追加のボーリング調査を行ったところ、上述の通り、事前の調査では把握できていなかった軟弱な砂混じりシルト層の存在が確認された。しかし、発生した沈下は比較的浅層での流動が主であったことから、この砂混じりシルト層以外に主たる要因があるものと考えられた。
軟弱地盤上の盛土に変形が生じるのは、盛土施工中の場合が多いが、今回の事例では、ステージを盛り立てた後ではあるものの、地盤改良工事を行っている最中に発生しており、地盤改良の工程が影響している可能性が高いと考えられた。
二期工事は一期工事から8年が終了しており、工事中および二期工事までの共用期間中に大きな問題は発生しておらず、また沈下は収束傾向にあった。
このため二期工事の実施にあたっては、一期盛土の下の軟弱地盤は既に対策終了したとの前提で検討が行われ、追加対策は隣接する橋梁への側方流動の影響を抑制するためのエポコラム改良と供用中の道路への影響を抑制するための盛土底部までの縁切りの矢板打設のみが行われた。しかしながら引き続き沈下変形が発生しているということは、軟弱地盤対策工事は終了していても、いまだ軟弱地盤対策の効果発揮は途上であり、軟弱地盤に起因するリスクは残存しているということであり、一期盛土直下の軟弱地盤の安定性は、想定よりも低かった可能性がある。また、盛土の変形箇所に連続する区間では、拡幅盛土完成後も大きな変形は生じておらず、通常の盛土工事を行う限りは、一期工事で先行して行われている地盤改良により、拡幅完了の盛土に対して十分な安定性があると推定される。これらの状況から、二期工事の際に追加施工された地盤改良工事が、隣接する一期盛土下の軟弱地盤に影響し、沈下変形を発生させたのではないかと推定された。
現地状況を想定したFEM解析(図3)では、圧密が進行中の一期盛土下の軟弱地盤に隣接する形で二期の軟弱地盤対策を行った場合、一期線盛土下の軟弱地盤に影響が及び、異常な変形が発生することが確認された。
冒頭で整理したように、今後軟弱地盤上の道路盛土の拡幅工事は増加するものと考えられる。特に近年施工された区間においては、圧密促進工法や軟弱地盤の層厚が厚い場合に支持層に着底させないフローティング改良やコスト縮減の目的のために導入される低改良される低改良率改良が採用されているケースも多く、対策工事の完了から対策効果が十分に発揮されるまでの期間が長くなりがちである。暫定二車線から四車線への拡幅が行われる場合の一期工事と二期工事の時間間隔が小さくなることも考えられ、今回紹介したようなトラブルへの配慮はより重要となると思われる。
重要な点は、軟弱地盤対策工事が終了しても、軟弱地盤対策が終了したとは限らない点である。
対策は、二期工事による先行地盤改良への影響を断ち切る、すなわち縁切り対策が基本となる。
今回の事例では、供用中の道路への影響を遮断するための縁切りとして矢板が打設されているが、一期盛土下の地盤は対策済みという認識であったことから、矢板は盛土底部までしか入れられていない。今回の事例では変形発生後の追加対策として深さ30m程度まで鋼矢板を打設して二期地盤改良を実施し、盛土の築造工事を行うこととした。軟弱地盤は深さ50m程度まで続いていることから、一般的な鋼矢板打設の可能深度を上回っており、完全な縁切りは難しいものの相当の効果があると推定される。
その他の対策としては、まず二期工事前に一期工事部分について詳細な土質調査を実施して、できるだけ実態を把握することが必要であると考えられる。
つまり書類上の対策工事の終了ではなく、現地における沈下の終息に着目して、一期工事への影響を検討するべきである。軟弱地盤対策においては、施工時から供用段階にかけて動態観測が行われている事例もあるが、そうした計測がない場合は、工事着手前に一定期間の動態観測を行って先行工事の実態を把握することも必要である。
実態評価の結果、二期工事による先行対策への影響が懸念される場合には、盛土の緩速施工を採用し、
工事の期間中は一期盛土の動態も観測して変状を検知した場合は工事中断などの対応が取れるようにしておくことも有効であろう。
また、一期工事の時点で二期区間に先行の対策を行っておらず、二期工事で追加の対策が必要な場合、追加の地盤改良に用いる重機を小型にして地盤への負荷を小さくする、既設盛土からある程度の離隔をとって影響を抑える(図4)などの工夫が必要である。また今回の事例では、改良柱体を打設する順番が盛土縦断方向に並行して打設(図5左)されていたことがわかっている。このようなやり方では、盛土横断面で考えると、法尻に改良柱体を打設されて、影響を受けている盛土の面積に対して、打設されている改良面積が比較的小さくなる。図5右のように、改良柱体の打設順序を盛土縦断に直交する方向にして、追加工事の影響を受ける一期盛土の範囲に対して、打設済み柱体による抵抗領域ができるだけ大きくなるよう施工するといった工夫も考えられる。
1) 内閣官房国土強靭化計画 「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策に関する中長期目標一覧」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/5kanenkasokuka/pdf/chuuchouki_mokuhyou.pdf
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