土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
基礎工事
1)オールケーシング
2021/04/26
道路橋の橋台を築造する工事で、オールケーシング工法による場所打ち杭を施工した。杭の仕様はφ1200mm、L=11.0m(掘削長:16.0m)で、1橋台当たり6本を打設した。施工地盤は、GL-3.2mまで埋土、GL-6.5mまではN値8~12のシルト混り細砂、GL-14.5mまではN値20~30の細砂、それ以深はN≧50の粗砂(杭の支持層)となっていた。地下水位はGL -3.5mであった(図-1)。
フーチングの施工にあたり床付けレベル(GL-5.4m)まで掘削を行ったところ、6本の杭のうち1本で杭頭部のコンクリートに断面欠損が見つかった。断面欠損部の杭径は最小1100mmであり、杭周囲を掘削して調べたところ、欠損部は、深度方向には設計杭頭から約80cm下(床付け面から約50cm下)まで達していた(図-2)。
断面欠損を起こした杭のコンクリートのスランプ試験結果や、施工時の状況(コンクリートの流動性等)を確認した。その結果、測定されたスランプ値(1台目の生コン車で測定)は、基準値18cm±2.5cmの下限値に近い16cmであったが、生コン車の最終4台目のコンクリートは現場管理試験の指定がなく、スランプは分からなかった。なお、1~3台目の生コンに比べて若干の流動性の低下が目視により確認されたものの、運搬時間も所定時間内であったため、杭頭部の余盛りを計画より50cm多くしてそのまま打込みを完了していたということが分かった。
杭頭部コンクリートの欠損の主原因は、コンクリートの流動性が低いことが懸念されたにもかかわらず打込みを継続したことにある。加えて、杭頭部の地盤は緩い砂層で、ケーシング引抜きの際に周囲の緩い砂の流入により杭断面が減少したものと想定される。
ケーシング引抜き時の状況を推定したものを図-3に示す。コンクリートの流動性が良好な状態に保持できていれば、杭鉄筋の外側のかぶり部へのコンクリートの充填性も向上し、断面欠損にはならない。しかし、流動性が低下しているとコンクリートがかぶり部に達しにくくなり、ケーシングの引抜きに伴って緩んだ砂層がかぶり部に流入して、断面欠損が発生する。なお、トレミー管のコンクリート中への挿入長さについては、2m以上4m以下が確保されており、特に問題ないものと判断された。
当該杭の杭頭部の欠損に対処するため、まず杭周囲を床付け面から0.6m掘下げ、それ以深では設計の杭径が確保されていることを確認した。補修は、杭外周の不純物や土砂を含む脆弱なコンクリートを確実にはつり取り十分に目荒らしを行った後、杭周囲に設計杭径より10cm大きい円形鋼製型枠を設置してポリマーセメントモルタルを充填した。ポリマーセメントモルタルは、乾燥収縮の低減や強度の発現に優れており、打設済みのコンクリートとの接着性に優れることから選定したものである。なお、充填したポリマーセメントモルタルは、圧縮試験用の供試体を採取し、所定の強度(28日、30N/㎟)を満足していることを確認した。
今回のオールケーシング工法での杭頭欠損トラブルは、杭の断面欠損が杭頭部の限られた範囲で発生したため、部分的な補修で対応できたものである。もし、このようなコンクリートの充填不良がもっと深いところにまで及んでいた場合には、杭の引抜き(または取壊し)再施工や、増杭にまで至る可能性もあった。
したがって、コンクリートのスランプの低下が疑われた場合は、速やかにスランプ試験を行うなどして、コンクリートの流動性を確認する必要がある。
夏季に打込みする場所打ち杭で、交通渋滞等で運搬時間が長くなることが予想される場合は、混和材に遅延型を用いることによりスランプロスに対応する方法もある。
さらに、スランプロス以外のコンクリートの流動性の低下の一因として、打込み中のコンクリート内へのトレミー管の挿入長さが長すぎることが考えられる。これについては、コンクリートの打設圧が小さくなる杭頭付近で特に注意が必要であり、トレミー管の適切な挿入長さ(杭頭部では2m以上4m以下)を確保1)するためのこまめな切離し計画が求められる。
また、杭頭部に位置する最終のケーシングは、鉄筋かごの外側にコンクリートが充填されるように時間をかけて引抜くようにするのがよい。引抜き時間の目安は1.0m/分程度である2)。
1) 場所打ちコンクリート杭施工指針・同解説 平成28年6月 一般社団法人 日本基礎建設協会
2) 杭基礎施工便覧 平成27年3月 公益社団法人 日本道路協会
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