土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
基礎工事
3)既製杭
2023/02/01
造成工事の擁壁基礎として、中掘り先端根固め工法によりPHC杭を施工した。PHC杭の仕様は杭径φ800mm、杭長35mで、杭の構成は下杭(A種)13m、中杭(A種)13m、上杭(B種)9mである。地下水位はGL-5.0mであった。施工地盤は、GL-14.5mまではN値0~2の軟弱粘土層、GL-34.5mまではN値10~17の細砂層、それ以深はN≧50の支持層(砂礫層)となっていた(図-1)。杭の打設機械は三点式杭打機で、全装備重量は105tであった。
現地は軟弱地盤であったため、杭の施工に先立ちセメント系固化材を用いて厚さ0.5mの表層地盤改良を行った。さらに杭打機の安定を確保するため、敷鉄板2枚敷きで杭の打設を行った。
Ⅰ期工事の杭打ち完了後、擁壁の底版構築のために土留め鋼矢板を打設し掘削を行ったところ、杭心のずれが数多く発生していることが判明した。なお、杭心ずれの規格値は、本工事では10cm以内(D/4かつ10cm以内の最小値)であったが、最もずれの大きい杭の変位が15.5cmで、全12本のうち6本がこれを上回った(図-2)。また、杭の傾斜も若干みられたが、規格値(1/100)以内に収まっていた。
当現場は表層地盤改良が施されていたものの、軟弱粘性土が厚く堆積していた地盤で、杭頭位置が施工基盤高から1.2mの深さであった。このため、杭打機の自重による側圧の影響で、地表面付近の地盤が側方移動を起こし、杭心のずれが発生したものと推定された。また、施工前に杭心の位置測量により設置していた杭心を表示する鉄筋棒が、施工中の杭打ち機の移動等に伴い移動していたのに気付かず施工した可能性も考えられた。
Ⅱ期工事(施工地盤はⅠ期工事とほぼ同等)における対処方法としては、以下の対策を行った。
(1)地盤改良の仕様を向上させて、表層部の地盤の安定性を向上させることとした。具体的には、「セメント系固化材による地盤改良マニュアル1)」を参考にして、杭打機据付け地盤、および地盤改良下端の地盤の支持力が十分確保でき、地盤の変形を起こさないように検討を行い、地盤改良厚を1.5mとした。
(2)杭打ち工事に先行して擁壁周囲の土留め用仮設鋼矢板(Ⅲ型、L=8.0m)の施工を行うことで、地盤の側方移動の抑制を図った。
(3)杭打ち機を据え付けた後、杭打設直前に杭心を表示する鉄筋棒を引き上げる際に、トランシットで杭心位置の再チェックを行った。
(4)固定ヤットコを数本準備しておき、杭打設後、杭とヤットコを固定しておいて打設後数時間後~翌日までの杭心の移動をチェックした。
これらの対策により、Ⅱ期工事においては、杭心ずれを最大40mmに抑えることができた。
なお、Ⅰ期工事における杭心位置のずれについては、擁壁の構造計算を行い、発注者の承認を得て底版の補強(形状一部変更・鉄筋増)で対応した。
既製杭の基礎工事において施工地盤が軟弱地盤である場合には、地盤の側方移動による杭の横移動防止や杭打機の転倒等の重大な災害防止のために、地耐力が杭打機の接地圧に十分耐えうるようにしておくことが極めて重要である。地耐力不足が懸念される場合には、表層改良等の対策を立案・実施しておく必要がある。
本事例では、施工のための地盤改良が地盤の終局限界を超えることがなかったものの、地盤の変形を防ぐレベルに達せず、施工精度の確保ができなかったと考えられる。
対策立案においては、ボーリングデータ等の地盤調査情報に加えて、事前の(杭基礎を含む)撤去工事の埋戻し箇所等でさらに緩い箇所がないかなど、現地の状況を正確に把握したうえで検討を行うことが重要である。そして、表層部の地盤改良は、杭の施工精度の向上にもつながることを認識し、地盤の終局限界と使用限界を意識して改良水準を決めるようにする。
また、当現場では適切な掘削速度で施工したため問題にならなかったが、掘削時の排土が十分でなかったことによる地盤の側方移動が杭心の移動の原因となることもあるので、適切な掘削速度の順守にも配慮しておく必要がある。中堀り杭工法の掘削・沈設速度の目安としては、杭基礎施工便覧に以下の数値(表-12))があげられている。
1) (社)セメント協会:セメント系固化材による地盤改良マニュアル(第4版)平成24年10月
2) (社)日本道路協会:杭基礎施工便覧 pp.177 平成27年3月
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