
2026/08/03
前回は、昭和30年代40年代の建設業の死亡災害発生状況の推移をみてきましたが、今回はそれ以降をみていきます。昭和51年以降、死亡災害が1000人台まで減少した後は平成8年まで1000人前後が続くなど、長きにわたり下げ止まり傾向が続きました。当時、建設業の死亡災害はもう減らないのではないかという嘆きの声が少なくありませんでした。
しかし、平成9年に初めて800人台に達してからは減少傾向が顕著に続き、令和7年には214人まで減少しました。
どうしてここまで減少してきたのでしょうか。この間、建設現場で死亡災害が減少した要因と思われるものをいくつか例示します。
まず、工事を安全に施工するための技術基準の整備があげられます。国土交通省等の工事発注者は工事を安全に施工するための仕様書、施工指針などの技術基準を整え、それに応じ受注者は安全な施工を一層求められるようになりました。このことが死亡災害減少につながったのは間違いないでしょう。
機械化、省人化などにより、現場で人が行う作業が減ったことは、確実に労働災害を減らしました。例えば、電柱上での作業。電柱の昇り降りがある限り、電柱からの墜落はなくなりません。しかし、機械化が進み、高所作業車を使用し電柱の昇り降りをなくせば、電柱の昇り降りによる墜落はなくなります。ただ、高所作業車からの墜落災害、高所作業車上でのブーム操作時のはさまれ災害など、機械化に伴う新たなリスクが発生することに留意する必要があります。
クレーンの過負荷防止装置、いわゆるリミッター(モーメントリミッター)は死亡災害の減少につながりました。一昔前、現場から「あと1m、延ばせないか」の要求を受け、クレーンオペレーターは「まだいけるだろう」とブームを傾けるものの、それによりクレーンの安定が損なわれ転倒。このようなオペレーターの無理な操作、判断ミスによるクレーン転倒が多発していました。それが、リミッターが取り付けられ、一定の負荷がかかると、クレーンの能力の限界に達する前に、クレーンは自動停止し操作ができなくなる。このような安全装置がクレーンの転倒防止に貢献しました。
「人の問題」の特効薬はこのような設備面の対策です。ただ、現場では、「あと1m、延ばせないか」のような要求はなくならず、リミッターを解除する違反行為が見受けられるなど「人の問題」はすっきり片づかないことが少なくありません。
バックホウなどの重機に搭載したバックモニターも労働災害減少に寄与しています。重機がバックする際、後ろの死角に人がいることに気づかず、ひいてしまう。「誘導なしではバックなし」と安全ルールを定めることは一定の効果はあるものの、それが守られず労働災害が繰り返し発生しています。重機を動かさなければならない時には、そこに誘導員がいてもいなくても、動かさなければならない。作業を優先させれば、現場はこう考えてしまいます。バックモニターを搭載することにより、重機オペレーターは、死角がなくなり直接目視で確認できるようになり、「後ろに人がいるとは思わなかった」という死角による「うっかり」事故の防止につながっています。
作業開始前の朝礼で現場責任者がその日に働く全ての作業員の前で行う安全訓話は、彼らの安全意識を高め、その後に行うKY活動は、その日の作業の危険を洗い出し、実施すべき安全対策を皆で確認する。その後も終業時まで、安全施工サイクルを回し続ける(下図)。このような現場の安全活動の定着は労働災害減少に貢献したと考えられます。
KY活動のマンネリ化などの問題点を指摘し、その効果は限定的と疑問視する声もありますが、未だ労働災害減少の兆しをみせない小売業や飲食店の現場をみた時、そこには働く人のための安全がほとんどなく、これと比べることにより、建設現場の自主的な安全活動の効果を確信しました。毎日、安全の施工サイクルを回し続けてきた建設現場は、その活動により、そこで働く人々が、危険を見つける力を養い安全意識を高め、正しい安全行動を覚える。それが今日の労働災害減少につながっているのだと意を強くしました。
(著)東京都市大学客員教授/事故防止研究所代表
高木元也
令和の時代の新しい安全対策
現場の失敗と対策
コラム
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