土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2024/01/05
今回紹介するトラブルが発生した構造物は、鋼・コンクリート合成構造で設計された構造物である。鋼・コンクリート合成構造とは、部材断面が鋼とコンクリートの組合せによって構成され、断面力に対してこれらが一体となって抵抗する構造のことである。鋼・コンクリート合成構造は橋梁の床版(合成床版)などで多く採用されてきており、代表的な構造の一例を図-1に示す1)。これはコンクリートと底鋼板をずれ止め(頭付きスタッド)で一体化した合成床版の構造(ロビンソンタイプ)である。
今回のトラブルは、港湾構造物の一つであるハイブリッドケーソンの壁部材にひび割れが発生したものであり、壁と床版の違いはあるものの、この壁部材も同様の合成構造である。したがって、今回のトラブル事例は、同様の合成構造として設計された合成壁や合成床版などにも参考になると思われる。
ケーソンとは中空の函状構造物で、この中に土砂などを詰めて安定させることで防波堤の機能を発揮させる。図-2に示すようなケーソン式混成堤は、重力式防波堤の代表的な構造形式の一つであり、東日本大震災の際に襲来した巨大津波に大きく損壊しながらも減災効果を発揮した釜石港湾口防波堤もこの形式である。近年では、ケーソン自体を鋼・コンクリート合成構造とした図-3のようなハイブリッドケーソンの採用事例が多い。この理由の一つは、ハイブリッド型式ではRC構造と比べて同一版厚で大きな部材強度を有するので、版厚を薄く軽量化でき、また大型フーチング構造が実現できることで、地盤反力の低減や堤体のスリム化が可能となるためである。
ケーソンは主に底版、壁、フーチングの部材で構成されており、ハイブリッドケーソンのフーチングにおけるひび割れ発生事例は、以前にこの記事でも紹介されている。今回のトラブルは、これと同じ防波堤ケーソンの壁部材を構成するコンクリートのひび割れである。
図-4に示す防波堤ケーソン(ハイブリッドケーソン、長さ50m)の製作工事において、壁コンクリート(30-8-25BB、W/C=45.7%、W=160kg/m3、C=350kg/m3)にひび割れが発生した。ハイブリッドケーソンの内壁部には鋼殻と呼ばれる鋼部材が配置されている。また、ケーソン本体は、延長方向に5mピッチで隔壁(鋼板)により函状に仕切られている(隔壁のイメージは図-3参照)。
鋼殻は厚さ7mmの鋼板が主部材で、その片面に山型鋼(L-75×75mm)が500mm間隔で溶接され、もう一方には頭付きスタッド(φ16×100mm)が250~300mmピッチで設置されている。頭付きスタッドの設置された面には鉄筋が設置され、型枠を設置して鋼殻の片側のみにコンクリートが打ち込まれる。壁の厚さは、鋼板の厚さを含めて300mmである。鋼殻および壁コンクリート打込みの状況を写真-1に示す。
壁コンクリートは高さ方向に2.0mまたは2.5mを1ロットとして打ち込まれた。2ロット目以降の壁部材は、3月下旬からおよそ2週間おきに施工された。
各ロットでは材齢3日で型枠が取り外され、同時に被膜養生剤が散布された。その時点ではひび割れは確認されておらず、各ロットでひび割れが確認されたのは材齢18~20日くらいであった。
壁コンクリートのひび割れはほぼ鉛直方向に、各ロットにおいて短いところで2~5mピッチで発生したが、場所によっては10m以上もひび割れの発生しない範囲もあった。また、すべてのひび割れが各ロットの下端から上端まで延びていたが、上部ロットにおいて下部ロットと同じ位置にひび割れが発生した箇所は少なく、ほとんどのひび割れが独立して発生していた。ひび割れの幅は0.2~0.3mmのものが多く、経過観察によりおよそ材齢1か月程度でひび割れ幅はほぼ収束していた。図-5に陸側の壁におけるひび割れの発生状況を示す。海側の壁のひび割れ発生状況も同様の傾向であった。
ひび割れの原因としては、単位セメント量が比較的多かった(C=350kg/m3)ことによる自己収縮の影響、型枠取外し後の乾燥収縮の影響が考えられ、これらによるコンクリートの収縮が鋼殻によって拘束されてひび割れを発生させたものと考えられた。このとき、スタッドがきっかけとなってひび割れが発生した可能性も考えられる。
また、壁の厚さが30cmと薄いことからその影響は小さかったかも知れないが、単位セメント量が多いこともあり、セメントの水和熱による温度応力の影響(温度降下による収縮時に鋼殻に拘束される)が加わっていたことも想定される。
鋼殻とコンクリートは、コンクリートの硬化後は頭付きスタッドを介して面的に一体化され、コンクリートは鋼殻に拘束を受けることになる。鋼殻自体はケーソン全体の骨格としてあらかじめ製作されているため、その拘束程度は大きいと思われる。よって、原因を定量的に評価できている訳ではないが、上記に示した複数の収縮要因が鋼殻の拘束の影響を受けて引張応力として作用し、ひび割れ発生に至ったものと考えられた。
なお、コンクリート打込み時の施工上のトラブルやコンクリートの品質上の問題、あるいは急激な気温の変化などの外部環境の著しい影響は確認されておらず、これらが直接的な原因ではないと思われた。
発生したひび割れへの対処としては、耐久性を考慮して0.2mm以上のひび割れに対してのみエポキシ樹脂を用いたひび割れ注入工法により補修し、0.2mm未満のひび割れは補修対象外とした。
今回のような鋼・コンクリート合成構造の壁部材においてコンクリートのひび割れを抑制するには、先に示した収縮要因を抑制することが必要となる。
コンクリートの自己収縮を抑制するには、セメント種類として、一般には高炉スラグ微粉末やシリカヒュームを用いると自己収縮が増大するため、低熱ポルトランドセメントや中庸熱ポルトランドセメントを用いるか、フライアッシュセメントを用いるのが有効である。ただし、これらのセメント種類の変更は材料コストや調達の問題、あるいは工事の工程確保の観点から採用が難しい場合が多い。
そこで、コンクリートの自己収縮や乾燥収縮によるひび割れを抑制するための対策として、膨張材や収縮低減剤が用いられることは多い4)。膨張材は、セメントおよび水とともに練り混ぜた場合に、水和反応によってエトリンガイトまたは水酸化カルシウムなどを生成し、コンクリートを膨張させる作用のある混和材である。一方の収縮低減剤は、セメント硬化体における空隙水の表面張力を持続的に低く抑える機能によってコンクリートの収縮を低減する混和剤である。さらに、膨張材は、外部拘束を受けて発生する温度応力を緩和する効果が期待できるため、温度応力ひび割れ対策としても使用される例は多い。よって、これらの混和材料の使用を検討することが望ましい。
また、使用材料での対策のほかには、ひび割れ幅を抑制するため、ひび割れ制御鉄筋(補強筋)や耐アルカリ性ガラス繊維ネットなどのひび割れ抑制材を配置することも有効である。
このように、鋼材とコンクリートのハイブリッド構造(複合構造)では、コンクリートと補強部材(鋼殻など)の剛性や収縮量の違いにより、コンクリートの収縮が拘束されてひび割れが生じやすい場合が多いと思われるので、注意が必要である。
1) 川田工業株式会社:合成床版資料、http://www.scdeck.com/structure/
2) 公益社団法人 日本港湾協会:港湾の施設の技術上の基準・同解説、(中巻)、施設編、第4章 外郭施設、p.921、平成30年5月
3) JFEエンジニアリング:ハイブリッドケーソン資料、
https://www.jfe-eng.co.jp/products/infrastructure/pdf/LE6006.pdf
4) たとえば、公益社団法人 日本材料学会:コンクリート混和材料ハンドブック、第1編 第4節 体積変化制御の物理と化学(谷村充・富田六郎)、pp.78-90、平成16年4月
1) CONCOM:ハイブリッドケーソンのフーチングにひび割れが発生!、現場の失敗と対策、コンクリート工事、https://concom.jp/contents/countermeasure/vol026/、2020/12/25
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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