現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、コンクリート工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例

基礎工事

1)オールケーシング

2024/11/01

硬質地盤におけるケーシングの引抜き不能

工事の概要とトラブルの内容

梁下部工の工事において、全周回転式オールケーシング工法による場所打ち杭を施工した。場所打ち杭は杭径φ1,800mm、掘削長ℓ=13.5m、杭長L=9.0m、橋脚1基あたり9本(橋軸方向3列×横断方向3列)である。
 橋台の施工範囲の地層は、GL0.0m~-1.5m:礫混りシルト(N=3)、-1.5m~-7.0m:強風化凝灰岩・強風化凝灰角礫岩(N=4~18)、GL-7.0~-12.0m:風化凝灰角礫岩(N=20~40)、GL-12.0~-16.0m:凝灰角礫岩(N=50~80)、GL-16.0m~:安山岩(N=600)で構成され、地下水位は確認されなかった。
 図-1に場所打ち杭の計画図と施工状況を示す。場所打ち杭のコンクリート打設時、ケーシングチューブ(以下、ケーシング)を3.0m引抜いた時、ケーシングが上下に動かない状態となった。

図-1 場所打ち杭のケーシング引抜き不能の概要図図-1 場所打ち杭のケーシング引抜き不能の概要図

ケーシングが引抜き不能となったため、コンクリート打設を中止し、既に打設したコンクリートをハンマーグラブで掘削したが、全てのコンクリートを除去することができず、鉄筋かごは撤去できなかった。
 ケーシングが引抜き不能となった原因を特定するため、施工範囲の地層構成、場所打ち杭の施工計画と杭施工時の状況について調査を行った。

(1)地層構成

ケーシングが引抜き不能となった深さGL-10.0m付近の地層は風化凝灰角礫岩により構成され、5mm~50mmの風化礫を含むとともに、GL-10m以深では80mm~230mmの硬質岩塊が点在する。この範囲は非常に硬質であり、掘削も非常に時間を要したことが施工記録で確認された。このため、硬質岩塊によりケーシングの周面摩擦が過大となり、ケーシングが回転できなくなる、いわゆるジャーミング現象が原因の一つとして考えられた。
また、地下水位は杭底のGL-13.0mより深く、掘削は無水状態で行っていたため、ケーシングの周面摩擦がさらに増加したと考えられた。

(2)施工計画

ケーシング延長はL=14.5mであり、上からL1=1.0m、L2=6.0m、L3=6.0m+ファーストケーシング1.5m=7.5mで構成されていた。
 場所打ち杭の施工計画は図-2に示すように、①コンクリート打設開始、②コンクリートをH=4.5mまで打設し、③ケーシングを1.0m引抜き、上部のケーシングL1=1.0mを撤去する。その後、④コンクリートをH=11.0mまで打設し、⑤ケーシングを6.0m引抜いて、ケーシングL2=6.0mを撤去する。⑥コンクリートをH=11.5mまで打設し、⑦残りのケーシングを引抜き、撤去して場所打ち杭の施工を完了する手順であった。今回のトラブルは⑤のケーシング引抜時に発生したが、この時、ケーシング内にはH=11.0mまでコンクリートが打設されていた。コンクリートの配合は30-18-20N、打設開始から2時間以内であったため、コンクリートの流動性には問題はないと考えられたが、H=11.0mまでコンクリートを打設したことにより、ケーシング内面の抵抗が増大している状況であり、これも引抜き不能の原因の一つとして考えられた。

図-2 場所打ち杭のコンクリート打設計画図-2 場所打ち杭のコンクリート打設計画

原因と対処方法

(1)原因

調査結果により、ケーシングが引抜き不能となった原因は、①硬質な風化凝灰角礫岩層における硬質岩塊によるジャーミング、②無水状態での施工による周面摩擦力の増大、③打設コンクリートによるケーシング内面の抵抗増大によるものと考えられた。

(2)対処方法

引抜きが不能となったケーシングは、以下の方法により撤去した。

・φ1,000mmのケーシングを使用し、掘削を行ってチゼルハンマーでコンクリートを取壊し、φ1,800mmのケーシング内部に残存しているコンクリートと鉄筋かごを撤去した。

・φ1,800mmのケーシング内を発生土で埋戻し、施工時の全周回転掘削機(引抜力2,600kN)より引抜力の高い仕様(引抜力3,450kN)の全周回転掘削機を使用した結果、ケーシングを引抜くことができた。

再施工に際し、硬質岩塊によるジャーミング対策として、場所打ち杭の掘削時にケーシング内に注水を行い、孔内に一定の水位を保持することで、ケーシングの周面摩擦力の低減を図った。

コンクリート打設時の内圧増加の対策として、図-3のようにケーシングの構成を変更し、

L2=6.0mのケーシングをL2-1=2.0mとL2-2=4.0mのケーシングに分割した。

④のコンクリート打設高H2=11.0mをH2-1=7.9mとし、⑤L2-1=2.0mのケーシングを引抜いた後、⑥H3=11.0mまでコンクリートを打設して⑦L2-2=4.0mのケーシングを引抜く手順とした。⑦以降は当初通り、H3=11.5mまでコンクリートを打設し、残りのL3=7.5mのケーシングを引抜いて場所打ち杭の施工を完了する計画とした。

図-3 場所打ち杭のコンクリート打設計画の変更図-3 場所打ち杭のコンクリート打設計画の変更

以上の対策により、これ以降の場所打ち杭については問題なく施工を進めることができた。

同様の失敗をしないための事前検討・準備、施工時の留意事項等

硬質地盤や粒径の大きい礫分を含む地盤において場所打ち杭を施工する場合、硬質岩塊によるジャーミングによる周面摩擦の増加により、ケーシングは孔壁から大きな拘束を受ける。そのため、硬質地盤の施工に適した回転トルクの大きい全周回転掘削機の使用、ケーシング内への注水による周面摩擦力の低減等の対策が考えられる。

また、ケーシング内のコンクリート打設高さは9~10m以下1)とするほか、通常はケーシングの引抜きが可能なコンクリートの打設高さでも、地盤条件によっては困難になる場合があるので、注意が必要である。

同様の失敗をしないため、事前に地盤調査結果の十分な照査を行うとともに、地盤条件に適した施工機械の選定と施工方法の検討が必要であると考えられる。

参考文献

1)日本道路協会:杭基礎設計便覧 令和2年度改訂版

「現場の失敗と対策」編集委員会

編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。

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