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2026/09/01

第5回 建設業の死亡災害減少の要因を考える(その2)

建設業の死亡災害は、平成9年に初めて800人台に達してからは減少傾向が顕著に続き、令和7年には214人まで減少しました。前回に続き、この間、建設現場で死亡災害が減少した要因と思われるものをいくつか例示します。

作業手順書の作成

作業の手順を定めた作業手順書の作成も労働災害減少につながったと考えられます。作業手順書があれば、作業前に作業の流れが理解でき、流れが理解できると、一つ一つの作業に潜む危険がみえやすくなり、作業する仲間がそれを共有することもできます。

昭和58年、私が初めて赴任した現場には作業手順書はありませんでした。

建設業の作業手順書作成の変遷をみると、当初は元請会社が作成していましたが、今では、実際に作業を行う専門工事会社が作成し、それを元請会社が確認するように進展してきました。実際に作業する専門工事会社が作成することは、より詳細に危険を洗い出すことができ、実現性が高くリスク低減効果が高い対策を立てやすく、作業員の当事者意識をより高めることにもつながります。

事例:作業手順遵守による感電防止

感電災害は,漏電遮断器などの感電防止器具の開発などにより、死亡災害が大きく減少しましたが、それに加え、建設現場では作業手順を守るようになったことも労働災害減少に貢献しています。

30年程前のことです。電気工事業の業界団体に、感電災害防止について話をききにいったことがあります。次のようなやりとりが交わされました(以下、電気工事業団体は電団とする)。

  • 筆者「感電災害を防止するには、どうすればよいですか?」
  • 電団「感電災害ですか?もう起きませんよ」
  • 筆者「えっ!どうしてですか?」
  • 電団「それは、現場が作業手順を守ることができるようになったからです」
  • 筆者「どのような作業手順ですか?」
  • 電団「第一に、作業は停電して行う。そして第二に、作業前、本当に停電かどうか検電して確かめる。この作業手順がしっかり守られるようになったからです」

感電災害は、「停電だと思ったのに・・・」と間違った思い込みをして通電部に触れるケースが少なくなく、「停電にする」「検電もする」ようなダブルチェックが現場に浸透したことが感電災害防止につながりました。

行政と産業界の連携

これまで、厚生労働省、建設業労働災害防止協会などは、建設業団体と連携して労働災害防止活動を推進してきましたが、このことは労働災害減少に貢献しました。

その一例を紹介します。

事例:土止め先行工法

電気、ガス、上下水道、通信などのライフラインを地中に埋設するため、深さ2~3mの溝穴を掘削して、その中に管・ケーブルなどを敷設する工事が行われていますが、一昔前、溝穴の壁面が崩れる土砂崩壊災害が多発していました。

土砂崩壊を防ぐためには、壁面を防護する“土止め支保工”の設置などを行わなければなりませんが、「深さ2mなら浅いし、管を入れたらすぐに埋め戻すから、土止め支保工なしでもいけるだろう」と安易な気持ちでそれを設置せず、土砂崩壊を招くケースが多発していました。土砂は1㎥でも約2tあります。それが崩れておそってきたら圧死に直結します。昔は、建設現場の三大災害の一つが土砂崩壊災害。それほど多発していました。

このため、厚生労働省と建設業労働災害防止協会は、小規模な溝掘削工事は、土砂崩壊災害防止対策として、作業員は、土止め支保工の設置が完了するまでは、決して溝の中に入らない施工方法を定めました。それが「土止め先行工法」と呼ばれるものです(下図)。この工法を建設業団体などと連携し普及を促進させたことにより、小規模な溝掘削工事の土砂崩壊災害は大幅に減らすことができました。

建設会社はもとより、公共工事などの発注者も土止め支保工の必要性を認識し、それまで土止め支保工の設置を受注者の判断に任せていた発注者が、工事の設計図書、積算にそれを盛り込みその費用を計上し、必ず設置しなければならないようにする動きも出てきました。

このような安全施工の手順やルールを定め、行政と建設業界が一体となってそれを普及促進することにより、業界全体に問題意識を共有化し、現場関係者の安全意識を向上させ、「このくらいの深さなら大丈夫」という安易な気持ちをなくしたことで、労働災害減少につながったと思われます。

(著)東京都市大学客員教授/事故防止研究所代表
高木元也

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