現場の失敗と対策 このコンテンツは現場で働く皆さんの参考としていただきたく、実際の施工でよくある失敗事例と対策を記載したものです。土工事、基礎工事、基礎工事の3分野を対象として事例を順次掲載していきますので参考としてください。

現場の失敗と対策

土工事

土工事

2)盛土・軟弱地盤

2026/09/01

海成粘土地盤における低改良率地盤改良のすり抜け破壊

はじめに

海沿いの軟弱地盤が広がる地域において高規格道路によるバイパス事業が進められている。

当該箇所の地盤は、地表からおよそ15m程度の深さまではN値がほぼ0の海成粘土層が堆積しており、15m以深はN値が20程度のシルト層が分布している。

盛土高さは7mで、暫定二車線幅員12mを確保しており、のり面は1:18である。

図-1 標準横断面図-1 標準横断面

先行する2事業区間において深層地盤改良工法を主体とした基本的な軟弱地盤対策の設計思想が取りまとめられていた。具体的には、シルト層まで1m程度を残したフロート形式とし、改良率30%、φ1.2mの改良柱体を1.9m間隔で正方形配置し、設計基準強度quck=600kN/m2の低改良率改良を採用している。

低改良率改良は、軟弱地盤の盛土下の領域をすべて改良するのではなく、一定の間隔をあけて改良柱体を形成し、コストの引き下げを狙った工法である。改良柱体と未改良域から構成される改良領域を一体と考え、改良柱体の強度と未改良域の強度を体積比に応じて案分することで改良域の強度を算出する1)

改良領域の強度は、改良柱体の強度と体積に依存し、工費は改良柱体の数量の影響を強く受けるため、できるだけ改良率を低くして、改良柱体の強度を上げればより経済的な断面となるが、改良柱体の強度はばらつきやすいこと、改良柱体の強度と未改良域の強度の差が大きくなりすぎると、改良領域が一体として挙動しなくなってしまうことから、改良率は水平断面積ベースで10~30%とされている。当該事業区間では平均的な改良率の上限を採用しており、十分な改良率は確保されていると考えられた。

基本設計では補助工法として、盛土底部に敷金網を二枚敷設することとしていた。この敷金網の機能は、改良柱体と未改良域が離散して分布する改良領域に対して、上部の盛土の荷重を適度に分散させるものである。安定照査において敷金網の効果についての定量的な評価は行わないこととした。一般的な軟弱地盤対策工法として軟弱地盤上に引張り補強効果を期待した補強材を敷設する敷網工法があるが、当該事業では、低改良率改良工法が成立する前提条件の確保という効果を期待したものとしている。

当該事業では敷金網を利用しているが、ジオテキスタイルを利用したり、盛土直下に浅層改良を行ってスラブ状の改良領域を形成したり、盛土の底部を改良土により強化したりするなどの補助工法が採用されることもある。

当該現場はインターチェンジにあたり、片側にランプを設置している。ランプ部は補強土壁工法を用いて急こう配化し、用地制約の範囲内でランプを確保している。

盛土の構築が終了し、道路が供用されてから3か月後に大規模な変形が生じ、全面通行止めとなった。盛土はランプが設置されている側の天端が3~4m沈下し、法尻に設置されていた補強土壁は全体的に変形しながら水平方向におよそ3m移動した。変形は用地境界外にも及び、民地部が最大で1.5m隆起している。変状は延長方向およそ50mに及んだ。

変状が発生する前日、比較的強い降雨が発生している。近傍の観測所で24時間雨量264mm、最大時間雨量44mmが記録されている。また変状発生のおよそ10日前には、震度5弱の地震が発生しており、路面にクラックなどが生じていたことが確認されている。

図-2 被災前後の形状比較図-2 被災前後の形状比較

道路管理者による初期の対応方針

当初、道路管理者は地震により発生したクラックから雨水が盛土内に浸透し、増加した土圧により補強土が前面に押し出され、民地側の地表面を隆起させたものと考えたが、非常に広範囲、特に盛土が民地側に大きく水平移動していることから、崩壊土を撤去した後に基礎地盤を可能な範囲で撤去し、さらにボーリングを実施して地下の改良柱体の変形を調査した。その結果、図3に示すように最も深いところで深さ10m近くまで杭体が破壊していることが判明した。

そこで改めて、降雨による盛土内水位が上昇した条件での円弧すべりを検討したところ、最小安全率のすべりがおおむね杭の破壊、盛土の変形、民地の隆起と一致することが判明したため、豪雨によるすべり破壊を原因とし、地震で発生した路面のクラックなどを補修して、盛土内への雨水の浸入を防ぐ対策を行った上で、改良柱体が破損した範囲内の地盤改良を再度行い、土を盛り立てなおして復旧する方針を立案した。円弧すべりの外側で大きな変形を生じていない柱体については、健全であると判断し、そのまま存置することとした。

図-3 地中の改良柱体破損の状況図-3 地中の改良柱体破損の状況

復旧方針の見直し

当初の復旧案に基づいて災害復旧を行う過程で、破壊シナリオに不自然な点があることが指摘され、再度有識者による破壊シナリオと対策の再検討が行われた。その結果、以下のような不自然な点が指摘された。

  • ① 当初の破壊シナリオ案では、豪雨により盛土内の水位が上昇したことを原因としていたが、すべり安定性の検討に際して、盛土天端までが飽和した条件で照査が行われていた。降雨により盛土内の水位が上昇することは一般的な現象であるが、平坦地における両側のり面の盛土において、盛土天端まで飽和するということは通常想定できない。特に崩壊したランプ側は補強土壁が設置されているが、補強土壁の補強領域には、補強材が敷設されており、通常の盛土よりも排水性に優れることから、盛土天端まで飽和した状態というのは現実的ではなく、すべり起動力を過大に評価している可能性がある。
  • ② 現場の破壊形態と盛土飽和条件での最小安全率すべりが近似しているのは事実であるが、地盤改良検討の初期段階で行う軟弱地盤対策を行わない無補強条件での最小安全率円弧すべりもほぼ近いところを通っており(図4)、何らかの原因で、地盤改良が機能していなかった可能性も否定できない。

特に、②については、初期復旧案では、変状が発生していない改良域の機能が残存していることが前提となっており、②で指摘されたような改良域が機能をしていない場合は、破損していない領域まで含めた対策が必要となる。

図-4 降雨+地震時のすべりと無補強条件のすべり図-4 降雨+地震時のすべりと無補強条件のすべり

現地の土質の分析や詳細な検討の結果、低改良率改良領域が機能をしていない可能性も含めた対策を講じることとした。

詳細な調査と検討の結果、いくつかの問題が発見された。

  • ① 軟弱地盤の組成
    既述の通り、本事業においては既に施工が完了した区間と同一の方針のもとで計画されている。施工済み区間と今回の事業区間を比べると、今回の事業区間はより海浜に近いエリアにあり、土質に含まれる成分に違いがある。詳細な調査の結果、現場付近は、既施工済み区間に比べて有機質含有量、有機質分に由来するフミン酸が多く含まれておいることがわかった。これらの成分は改良材の強度発現を阻害し、改良柱体強度を低下させる懸念がある。柱体が破損した領域でボーリングにより採取した柱体の強度を調べたところ、2割程度の箇所において、設計改良強度を下回る試験体が見つかっている。
  • ② 旧地形の影響
    旧字図や過去の航空写真測量資料の調査により、当該工区は、過去には多くのクリークや旧水路・運河が存在していたが、近年区画の整理などによって通常の農地となっていた場所が複数確認された。これらの旧水路等の横断箇所においては、その前後とは地層の構成が異なっており、特に地質が多くの有機質分を含んでいることが確認された。このような箇所では、局所的に改良柱体の強度が低下する恐れがある。①で触れた追加調査で設計改良強度を下回った試験体のいくつかは、旧水路のあとと思われる地層構成の不連続な部分で見つかっている。
  • ③ 敷網敷設の省略
    既述の通り、当該事業の計画では、盛土底部に敷金網を設置する計画となっていた。しかし、先行する区間において、金網を設置せずに試験施工を行ったところ、施工後の盛土の変形量などが設計時の推定よりも小さかったことから、本事業区間においては、金網の設置を省略した構造としていた。

図-5 低改良率改良の荷重分担のメカニズム図-5 低改良率改良の荷重分担のメカニズム

低改良率改良の前提は、図5の(a)に示すように、改良柱体と盛土の境界部分において、土粒子によるアーチ状の構造ができることで盛土の荷重が分散され、改良柱体に分担されることであり、この現象が未改良域と改良柱体の強度を平均化する根拠となっている。これは低改良率改良の前提であり、これが成立しない場合、改良領域全体としては十分な強度を有していたとしても、改良柱体と未改良域は一体として挙動せず、図5の(b)に示すように、盛土の荷重が未改良域のみに集中してしまう。その結果、改良柱体の間をすり抜けるようなすべりが発生し、未改良域の破壊に伴って隣接する改良柱体も破壊していく懸念がある。

(今後の対策と再発防止のための留意点)
最終的な対策としては、列挙した懸念材料から、改良柱体が破損していない領域においても改良域がうまく機能していない可能性を考慮して、未崩壊の盛土も撤去した上で改良域全体を再改良する対策を講じた(図6)。

図-6 当初復旧案と見直しの結果図-6 当初復旧案と見直しの結果

今回の被災が盛土の高さ(約7m)に比べて非常に広い範囲に及ぶ大規模な変形を生じており、低改良率改良域が一体として機能していない懸念を強く疑わせるためである。

また、改良にあたっては、有機成分を多く含む土質にも対応できるよう改良材を変更したことに加え、現地配合試験を細かく実施し、必要な改良強度が発揮されるよう、改良材の配合量をきめ細かく変更しながら施工を行うこととした。地盤改良を行った後に金網を二枚敷設して盛土の再構築を行っている。

軟弱地盤が十数㎞にわたって連続するような区間では、軟弱地盤の構成は均一なものであると考えがちであるが、実際には事業に悪影響を及ぼすような規模の小さな不均質要因が存在することは多い。今回の事例でいえば、先行する事業区間に比べて、海浜に近く、多くの塩分、有機質を含む地盤に対して、現地配合試験等の実施をおろそかにし、改良材の配合量を先行区間のものをそのまま使用してしまったこと、海浜に近いという特性から多く分布する旧水路などの比較的小規模な地形特性への配慮が不足していたことが挙げられる。
これらは不均質性に対する配慮の不足であるが、他方で敷網敷設の省略について、敷網を省略しても変形量が少なくなったという試験施工の結果は何らかの不均質性に起因するものとも考えられ、不均質性の影響を都合よく解釈して、危険側の評価をしてしまったともいえる。設計照査で見込んでいないとはいえ、敷網の省略は負の効果につながるものであるから、想定よりも変形量が小さくなった、という時点で敷網省略の効果の評価について、慎重な姿勢をとることもできたであろう。

また、被災が発生した場合には、被害の範囲や原因を限定的に考えてしまうことが多い。
今回の被災では、盛土高さの割に非常に広い範囲で、大規模な変状が生じているにもかかわらず、地盤組成に起因する限定的な改良柱体の強度不足や通常よりは強いものの決して稀有なレベルではない降雨や地震に原因を求めようとするなど、初期段階の検討にやや不十分な部分が見られた。被災の復旧期間や費用を考慮すれば、過大な評価によって必要以上に復旧対象範囲を拡げたくないという気持ちは理解できるが、原因を過小評価すれば再度罹災の可能性もある。令和6年能登半島地震では平成19年能登半島地震の際に被災し復旧された箇所はほとんど被害がなかったが、復旧箇所に接するような箇所での新規被害が生じたことが指摘されている2)3)。被災時の復旧範囲の設定については、範囲を広くとることのメリットとデメリットがあることをよく理解し、慎重に範囲を設定することが必要である。

参考図書

1)軟弱地盤改良技術に関する共同研究報告書 -低改良率セメントコラム工法マニュアル(案),独法土研ほか,2005.10
https://thesis.pwri.go.jp/public_detail/104584/

2)コンコム コラム「能登半島地震の被災状況に学ぶ 前編」,2024.9
https://concom.jp/contents/countermeasure/column/vol52.html

3)コンコム コラム「能登半島地震の被災状況に学ぶ 後編」,2024.10
https://concom.jp/contents/countermeasure/column/vol53.html

新着記事

令和の時代の新しい安全対策

2026/09/01
第5回 建設業の死亡災害減少の要因を考える(その2)

現場の失敗と対策

2026/09/01
土工事 2)盛土・軟弱地盤 海成粘土地盤における低改良率地盤改良のすり抜け破壊

コラム

2026/09/01
場所打ち杭の鉄筋かごの組立方法について