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2026/06/01
建設投資額が回復傾向にあり、現場の需要が高まる一方で、地域建設業を取り巻く「人手不足」と「高齢化」の波は深刻さを増すばかりです。総就業者数のうち55歳以上が3割を超え、現場を支える60歳以上のベテラン技能者の大半が10年後には引退を迎えるというデータもあります。これからの建設業を担う29歳以下の技能者の割合は全体の約11.7%に留まっており、次世代への技術承継と担い手の確保は、地域のインフラを守り災害対応力を維持するための「防衛策」として、今や待ったなしの状況にあります。
これまで、国土交通省直轄の大規模な土工現場を中心にICT施工の普及が進み、実施率は約9割に達しています。しかし、都道府県や市町村が発注する地方公共団体の工事、とりわけ中小建設業者が主役となる「小規模工事(水道・下水道・浄化槽といった管路工事など)」に目を向けると、その普及は極めて限定的であるのが実態です。
特に都市部や住宅街などの上下水道といった小規模現場では、建設機械の配置や作業領域が制限されるため、小型の建機しか活用できません。
こうした小規模現場の課題を解決し、劇的な省人化と効率化をもたらす切り札として今、大きな注目を集めているのが「チルトローテータ」です。
チルトローテータとは、バケットなどのアタッチメントを360度回転させ、左右に最大45度まで傾けることができる、いわば「油圧ショベルの手首」に相当する省人化建設機械です。その導入効果は、すでに実証データとして数字で証明されています。
例えば、長さ5m、深さ・幅600mmの床掘から塩ビ管の敷設、埋戻しを行う試行工事のケースを見てみましょう。従来の通常の油圧ショベルを使った施工(オペレーター1人、手元作業員2人の計3人)では総作業時間に138分かかっていました。これが、チルトローテータを導入して人力作業を機械化し、手元作業員を1人に減らすだけで「60分(57%減少)」へと短縮。さらに、後述する2Dマシンガイダンス(2DMG)を組み合わせ、手元作業員を完全にゼロにした「ワンオペ施工」を実現したところ、総作業時間はなんと「30分」へと激減し、実に約78%もの作業時間短縮を達成したのです。
建機自体を移動させずにあらゆる角度から掘削・整形ができるため、手元作業員が不要になるだけでなく、キャビン(運転席)から降りずにワンタッチでバケットやリッパー、箒などのワークツールを交換できるため、オペレーターが空調の効いた安全な環境で一連の作業を完結できます。
さらに、この技術は技能者の処遇改善にも直結します。チルトローテータを自在に操るオペレーターは、人力作業も代替する「多能工」としての評価を受けるべきです。公共工事設計労務単価における従来の「運転手(特殊)」という枠組みから、チルトローテータ施工や多能工に対応した新たな評価への引き上げに繋げることで、現場の処遇を改善し、「誇りのあるプロの技能者」へとステータスを高めることができます。
国土交通省もこの流れを強力に後押ししており、令和7年1月に「ICT建設機械等認定制度」を拡充。新たにチルトローテータ付き油圧ショベルなどを「省人化建設機械」として認定し、受注者からの協議による設計変更の対象とするなど、積算要領の整備や試行工事を通じた効果調査を継続して進めています。
では、実際の小規模現場でチルトローテータはどのように活用されているのでしょうか。長野県の有限会社信濃住宅設備が提案する「小規模管路工事のDX化-茅野モデル1.0」は、地方自治体発注の管工事における極めて先駆的な導入事例です。
地方の小規模施工では、出来形は相対的な位置管理が多く、工事基準点の3次元座標(GNSS情報など)を必要としない工事がたくさんあります。そこで同モデルでは、高価でハードルの高い3次元(3D)設計データを作るのではなく、「2次元マシンガイダンス(2DMG)」システムを第一歩として導入しました。2DMGは地面からの相対位置のみをガイダンスするため、3次元データなしでICT活用が可能です。
実際の現場では、勾配機能付き回転レーザーを設置し、下水道の設計勾配に合わせた平面レーザーを掘削場所に照射します。チルトローテータと2DMGを装備したミニバックホウは、そのレーザーを受光することで、オペレーターがキャブから一切降りることなく、モニターの表示と警告音で刃先の深さや勾配をリアルタイムに確認しながら掘削を進めます。通常であれば、スタッフ(標尺)を持った検測員とオペレーターの呼吸を合わせながら進める深さ管理を、完全に1人で完結できるのです。
チルトローテータと2DMGの組み合わせは、まさに地域建設業が直面する人材不足に対する「強力な防衛策」であり、若手入職者にとっても「最先端のツールを乗りこなす、かっこいいプロフェッショナルな職場」という魅力をアピールできる絶好の材料となります。
ただし、導入にあたっては注意点もあります。アタッチメント自体の重量による重機の安定性の確保や、複雑なレバー操作を習熟するための一定の訓練期間が必要となる点です。また、現在は施工者希望型での試行が中心であるため、現場の条件に応じた設計変更の手続きについて、発注者側との丁寧な事前協議が不可欠です。
しかし、欧州では日本のようにはじめから3次元化を目指すのではなく、こうした2DMGやチルトローテータを「ICTの第一歩」として導入し、中小建設業者がその圧倒的な省人化効果を体感しながら段階的にステップアップしていくモデルがほぼ確立しています。やる気になれば誰でも活用が可能な「茅野モデル」のようなアプローチは、他自治体や他工種への横展開を見据えた非常に大きなポテンシャルを秘めています。
地方の現場が直面する危機をチャンスに変え、劇的な省人化と技術力の底上げを実現するために、まずはこの「省人化建機」という最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
(寄稿)施工技術総合研究所 主任研究員
田中一博
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