
2026/07/01
昨今、夏場の労働災害防止の最優先課題は熱中症対策になりました。
昨年、令和7年の夏は大変な暑さでした。気象状況を振り返ってみると、春から夏にかけての季節の進みが早く、東北地方を除き5月に梅雨入り、6月に梅雨明けとなり、多くの地方で最も早い梅雨明けの記録となりました。早い梅雨明けの影響もあり、北・東・西日本の夏(6~8月)は歴代1位の高温となりました。日本の平均気温は平年差+2.36℃、過去2年(2023年・2024年)の+1.76℃を上回り、3年連続で最も高い値を記録しました。
そして8月5日には、群馬県伊勢崎市でわが国の歴代最高気温41.8℃を記録し、これまでの最高気温41.1℃(2018年熊谷市、2020年浜松市)を一気に0.7℃も上回りました。また、40℃以上の地点数の積算(30地点)と、猛暑日の地点数の積算(9385地点)も歴代最多となりました。
このような異常な暑さの下、職場の熱中症による死傷者数(休業4日以上)は1,803人と過去最多、異常な暑さと言われた2024年の1,257人を43.4%も上回りました。一方、2025年の死亡者数は19人と前年31人と比べ38.7%減少しました。これは昨年6月、改正安衛法施行により熱中症重篤化防止対策の規制が始まった効果ではないかと言われています。
出典:厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001705024.pdf
異常な暑さになると熱中症死傷者数が一気に増加します。では今年の夏はどうでしょうか。5月19日、気象庁は6月から8月までの3か月予報を発表しましたが、それによると、今年の夏も全国的に平年よりも気温が高い予想で、エルニーニョ現象の動向によっては平年以上の猛暑のおそれもあり、厳しい暑さへの備えが必須になると予想されています。
熱中症による労働災害が増大し続ける中、厚生労働省は、令和8年3月18日、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を公表し、熱中症対策をこれまでのキャンペーン(STOP!熱中症クールワークキャンペーン)からガイドラインに格上げし、対策の強化に動き出しました。
そこで本稿では、まず、熱中症対策の基本としておさえておくべき「たまった熱を出す身体のメカニズム」などを紹介した上で、本ガイドラインのポイントを解説します。
熱中症は、身体にたまった熱がうまく出せなくなり、体温(直腸付近の深部体温)が上昇し発症します。このため、たまった熱を出す身体のメカニズムを十分に理解し、予防意識を高める必要があります。また、応急処置もマスターする必要があります。
a.熱がたまるメカニズム
まず、「熱がたまるメカニズム」です。熱がたまるのは、①炎天下など暑い(熱い)所にいる、②作業で肉体を動かす(筋肉に熱が生まれる)の2つのケースがあります。このため、夏場の屋外作業はダブルで熱がたまります。
b.熱を出すメカニズム
次に「熱を出すメカニズム」です。人には体温調節力があり、体温は脳で厳密にコントロールされています。このため、身体に熱がたまり体温が上昇すると、即座にそれを下げるため、脳が血液に命令し、たまった熱を放出しようとします。血液が身体の熱を吸収し、皮膚表面にある毛細血管まで運び、そこで、外気温の低さ、汗の蒸発により熱が奪われる(気化熱)ことなどにより、熱が放出されます。
c.たまった熱がうまく出せないメカニズム
ただ、熱がうまく放出できないことがあります。代表的なものとして、①脱水症、②暑熱順化していない身体、③基礎疾患ありの3つがあります。これらについて効果的な対策を理解し現場で実践することが求められます。
① 脱水症
血液が身体にたまった熱は汗をかき放出されているが、汗をかくことによりその成分である血液の量が減少します。血液量が減少しドロドロになると血流のスピード(血流トラックという)が落ち、効率よく熱が放出できなくなります。これが脱水症です。そうなると体温調節力の低下につながり、身体にたまる熱の量より身体から放出する熱の量が少なくなり体温上昇を抑えられず、熱中症を発症します。
脱水症対策には、水分・塩分の適量摂取があげられます。厚生労働省の通達(基発0420第3号)「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」によれば、次のとおりです。
作業中における定期的な水分及び塩分の摂取については、身体作業強度等に応じて必要な摂取量等は異なりますが、作業場所のWBGT値がWBGT基準値を超える場合*1には、少なくとも、0.1~0.2%の食塩水、ナトリウム40~80mg/100mℓのスポーツドリンク又は経口補水液等を、20~30分ごとにカップ1~2杯程度を摂取することが望ましいです。
特に、熱中症発症率が高い高年齢者が心配です。高年齢者は、暑さを感じにくく、のどの渇きをあまり訴えないため、十分な水分摂取をしないおそれがあり、データによると高年齢者の熱中症発生率は高くなっています。このため、作業員一人ひとりの水分・塩分摂取量を管理することが求められています。
上の表1を基に、実作業による身体作業強度に応じたWBGT基準値を導き、計測した作業場所のWBGT値がWBGT基準値を超えていれば、上記の水分・塩分摂取が必要となります。
② 暑熱順化していない身体
急に暑くなると、汗をかくために必要な自律神経の反応がうまく行われず、たまった熱がうまく放出できません。身体が暑さに慣れる、いわゆる暑熱順化が必要になります。人は、暑い中での作業を始め3~4日が経過すると、汗をかくために必要な自律神経の反応が早くなり、さらに3~4週間経過すると、汗をかく際、無駄な塩分を出さないようになります。また、暑熱順化した身体になっていても、夏季休暇等で、熱への曝露が4日以上中断する暑熱順化の顕著な喪失が起こります。暑熱順化とは、汗をうまくかけるようにすることです。週間天気予報などで、急激に暑くなる時期を予測し、その前までに、運動や入浴などで汗をかく練習をする協力を作業員に求めることが望まれます。
③ 基礎疾患あり
たまった熱をうまく出せない原因には、以下のような基礎疾患もあげられます。
【熱中症発症に影響を与える基礎疾患例】
① 糖尿病、②高血圧症、③心疾患、④腎不全、⑤精神・神経関係の疾患、⑥広範囲の皮膚疾患等
健康診断結果は個人情報のため取り扱いには十分な配慮が必要ですが、熱中症災害を防止するためには基礎疾患ありの作業員を把握することは重要です。
重篤化を防ぐためには応急措置が重要です。以下に応急処置(例)を示します。
・熱中症は“まず疑う”ことが最も大切である。自分では気がつかない間になることも多く、暑熱環境下で体調不良の人をみかけたら周囲の人に声をかける。
・現場の応急処置で何とかなるのか医療機関に搬送すべきか見極めが重要である。
・現場で見極めるポイントは、意識がしっかりしているかどうかである。声を掛けていつもと反応が違う、あるいは普通でなければ意識障害ととらえ救急車を呼ぶ。
・意識がしっかりしていれば涼しい場所に運び、安静にして⾐服をゆるめ風を送り冷やす。
・エアコンの効いた部屋、車があればエンジンをかけエアコンを効かせた中で楽な姿勢を取らせる。
・実際に身体を冷やす場合、首筋には濡らしたタオルを当て、脇の下、鼠径部前面に保冷剤やタオルやハンカチに包んだ冷水のペットボトルなどを当て冷やす。それにより体表近くを走っている太い静脈を冷やす。
・次に、脱水状態を改善するため、冷えた水やスポーツドリンクなどのペットボトルを手渡して飲ませる。
・しっかり手に持ってうまく飲めれば、意識はしっかりしている。水分摂取により身体の冷却が始まったことになるので、そのまま付き添って様子をみる。
・ペットボトルがうまく持てない、上手に飲めずにこぼす、むせるといった場合は、医療機関へ搬送する。明らかに意識障害があると判断できる。
・救急車が到着するまでの間でも、深部体温の上昇を防ぐため、水道水散布法(https://neccyusho.mhlw.go.jp/switch-on/)などで冷却する。
・休憩中、付き添って様子をみなければならない。一人にしてはいけない。数十分待っても回復徴候がなければ、医療機関へ搬送する。
次に、令和8年3月、厚労省が公表した「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を紹介します。概要版では大まかな管理しか記載されていないため、詳細な解説をわかりやすくまとめました。こちらも読んで知識を深めてください。
詳細解説はコチラ→
ガイドラインの詳細解説詳細解説はコチラ→
ガイドラインの詳細解説出典:厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001676132.pdf
以上、熱中症対策の基本としておさえておくべき「たまった熱を出す身体のメカニズム」を中心に、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」の概要を紹介しました。
現場の最前線で働く作業員が「たまった熱を出す身体のメカニズム」を熟知し、脱水症対策、暑熱順化対策などを自発的に行うことにつなげます。
また、本ガイドラインには、数値データなど科学的根拠を伴う多くの対策が示されています。これらすべての実施はクリアすべき課題があるかもしれませんが、過酷な暑さでは30分に1回、コップ1杯(200cc)の水分と、1ℓあたり1~2gの塩分を摂取させる(スポーツドリンクは同時に両方摂取可)、さらに表を作成しそれを管理する、熱中症の兆候を調べるため休憩所に体温計や体重計を用意するなど、本ガイドラインに示された対策を可能な限り実施し、熱中症防止対策を精力的に実施することが求められます。
さらに、厚生労働省のホームページには、『熱中症の応急手当』『水分補給と休憩』『暑熱順化』といったショート動画も公開されていますので、参考にすると良いと思います。
(著)東京都市大学客員教授/事故防止研究所代表
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