土工事、コンクリート工事、基礎工事の事例
コンクリート工事
1)打設中(コンクリートの特性とクラック)
2022/10/03
山の中腹に鉄筋コンクリート製の貯水槽を建設する工事を行った。この現場では、施工場所まで通じる車道はなく、生コン車やコンクリートポンプ車などの車両が入ることができる場所(車道の終点)から打込み場所までは、図-1に示すように、水平距離440m、高低差86m、斜距離が約450mとなる高所までコンクリートを長距離圧送する必要があった。車道の終点(圧送の開始位置)から打込み箇所までは幅1m程度の狭い人道があるのみであり、配管作業もほぼ人力により行うような場所であった。
当初設計ではコンクリートの配合は24-12-25BBとされていた。これは、貯水槽に必要な性能(強度やスランプなど)から決められたものと思われたが、今回の長距離・高所圧送に適した配合ではないと判断した。そこで、土木学会の「コンクリートのポンプ施工指針」1)や「コンクリート標準示方書・施工編」を参考にしながら、現地の生コンプラントやポンプ圧送業者にヒアリングし、長距離圧送の実績に基づいてスランプを18cmとし流動性を高めて圧送抵抗を小さくした配合で、実施工と同じ施工条件での試験圧送によりポンプ圧送性を確認することにした。このとき、コンクリートの流動性を高めるだけでなく、粉体量(主として単位セメント量)を増やすことによってコンクリートの材料分離抵抗性を確保するために、呼び強度を24、27、30とした3種類の配合(スランプは18cm)で試験圧送を行った。なお、コンクリートポンプ車は十分大きな理論吐出圧力を有するもの、配管(5インチ管)も十分な耐圧性能を有するものを用いた。
試験圧送の結果、写真-1に示すように、呼び強度24と27の配合では明らかに圧送中に閉塞を生じ、何度か再圧送を試みたものの困難であった。呼び強度30の配合では、圧送が少し不安定ではあった(閉塞しそうな状態になることがあった)ものの、完全に閉塞して圧送不可となることはなく、30-18-25BBの配合のポンプ圧送性が最も優れていた。
呼び強度24と27の配合における配管閉塞はあくまで試験圧送において生じたものであり、施工トラブルではない。しかし、この配管閉塞の原因は、スランプ18cmとするために単位水量が大きく(175kg/m3)、さらに呼び強度24や27の配合は呼び強度30(単位セメント量:382kg/m3)よりも単位セメント量が約25~50kg/m3少ないためにモルタル分に粘性(材料分離抵抗性)が不足したことなどにより、長距離・高所圧送によって高い圧力で配管中を移動する際に水が分離して、局所的にコンクリートの流動性が低下し、配管閉塞に至ったものと考えられた。閉塞した箇所のコンクリートはまさにそのように脱水した状態であった。
そこで、この30-18-25BBの配合をベースに、細骨材率(s/a)を大きくした配合と合わせて、加圧ブリーディング試験2)を行って最適な配合を選定することにした。細骨材率は骨材容積に占める細骨材容積の比率のことで、これを大きくすると細骨材の量が増えるため、コンクリートの粘性(材料分離抵抗性)は増加することになる。
加圧ブリーディング試験は、加圧による水分移動(脱水)の程度によってコンクリートのポンプ圧送性を評価する試験である。加圧ブリーディング試験の評価方法を図-2に示す。図の斜線部分はポンプ圧送性の良好な範囲を示している。
加圧ブリーディング試験の結果、図-3に示すように、30-18-25BBのベース配合(細骨材率:44.1%)では脱水量の上限値付近であったが、細骨材率を約3%大きくした30-18-25BBの修正配合ではポンプ圧送性がより良好な範囲となったため、この修正配合を用いて施工することとした。
実施工においては、貯水槽を5ロット(底版、壁3段、頂版の5回)に分割して施工したが、この修正配合を用いて合計約500m3のコンクリートを圧送し、一度も閉塞することなく貯水槽のコンクリートを良好に施工することができた。
一般に、コンクリートの圧送におけるトラブルは、高所圧送(打ち上げ)よりも低所圧送(打ち下ろし)の方が起きやすいと言われている。下向き配管においては、配管内でコンクリートが自由落下しやすく、それによって材料分離を生じて閉塞しやすいためである(関連記事1),2),3)を参照)。一方、高所圧送の場合は、長距離圧送の場合も同様であるが、圧送条件(水平換算距離など)や配合条件を考慮して適切なコンクリートポンプや配管を準備し、ポンプ圧送性に優れたコンクリートを用いれば、大きな問題になることは少ない。つまり、事前の計画を適切に行えばきちんと圧送できる場合がほとんどである。
今回の工事では、設計段階で長距離・高所圧送に適したコンクリート配合についての検討がなされておらず、コンクリートの打込みと強度・耐久性の確保に必要な配合が指定されていただけであった。今回は明らかに長距離・高所圧送が難しい配合が指定されていたため、施工計画段階で詳細に検討し、試験圧送まで実施して適切な配合のコンクリートを選定することができた。
今回のような特殊な条件でのポンプ施工が求められる場合や、たとえば良質な天然骨材が使用できないためにポンプ圧送性が低いと想定されるコンクリートを用いる場合などには、試験圧送により施工の可否を判断することが推奨される。このとき、試験圧送に先立って、加圧ブリーディング試験などのポンプ圧送性を事前に評価する方法を活用して、コンクリートのポンプ圧送性を検討することも有効と思われる。
コンクリートのポンプ圧送に関わる施工方法や配合についての事前の検討には、前述の「コンクリートのポンプ施工指針」1)や「コンクリート標準示方書・施工編」を参照する必要がある。
1) (公社)土木学会:コンクリートライブラリー135,コンクリートのポンプ施工指針2012年版,2012年4月
2) (公社)土木学会:2018年制定 コンクリート標準示方書[規準編],加圧ブリーディング試験方法(案),JSCE-F 502-2018,2018年10月
1) (一財)建設業技術者センターHP:現場の失敗と対策,地上から立坑内にポンプ圧送した時の配管の閉塞(2014/06/26),https://concom.jp/contents/countermeasure/concrete/cat01_vol3.html,2014年6月
2) (一財)建設業技術者センターHP:現場の失敗と対策,高流動コンクリートのポンプ圧送時に輸送管が破裂(2018/03/29),https://concom.jp/contents/countermeasure/concrete/cat01_vol9.html,2018年3月
3) (一財)建設業技術者センターHP:現場の失敗と対策,下向きポンプ配管の閉塞(2022/10/3),https://concom.jp/contents/countermeasure/vol048/,2022年10月
編集委員会では、現場で起こりうる失敗をわかりやすく体系的に理解できるよう事例の形で解説しています。みなさんの経験やご意見をお聞かせください。
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