
コンクリート工事
コンクリート工事
4)打設準備(型枠・鉄筋組立・その他)
2026/10/01
コンクリート構造物の温度ひび割れについて、土木学会編「コンクリート標準示方書」1)や日本コンクリート工学会編「マスコンクリートのひび割れ制御指針」2)などにおいて、「セメントの水和熱(初期ひび割れ)が構造物の要求性能に影響を及ぼす懸念がある場合」は、設計・施工段階での照査を実施することが原則とされている。「セメントの水和熱(初期ひび割れ)が構造物の要求性能に影響を及ぼす懸念がある場合」として、厚さが50cm以上の下端が拘束された壁部材および厚さ80cm〜100cm以上広範囲なスラブや基礎が具体的に挙げられている。昨今では、このような具体的な寸法規定による場合に限らず、施工者がひび割れ発生時のリスクヘッジの観点から温度ひび割れ照査を実施している構造物も数多くある。
ひび割れ照査の方法として、最近では3次元有限要素法による温度応力解析を用いた方法と実積やデータベースを用いた方法の2つの方法が主流である。中国地方整備局では「温度ひび割れ制御対策の手引き(案)」3)の中で山口県のデータベースを利用する方法が示され、実積からひび割れ制御対策を具体的に決定することができるようになり、実績やデータベースを用いた方法による照査も増えてきている。しかしながら、ひび割れ照査を実施する多くの場合、3次元有限要素法による温度応力解析が実施されているのが現状である。
温度応力解析による照査について2022年制定コンクリート標準示方書[設計編] 4)では、下式で示されるひび割れ指数を算定し、目標とするひび割れ発生確率に対応した図-14)に示す安全係数を満足するかを照査する。
Icr(t)≥γcr
ひび割れ指数はコンクリートの引張強度と引張応力の比であるが、これまでの「コンクリート標準示方書」や「マスコンクリートのひび割れ制御指針」の度重なる改訂において、ひび割れ指数の算定に用いる引張強度ftk(t)を「構造物中の引張強度」としたり、「割裂引張強度」としたり都度変更したために、その一貫性と確率論との整合が図られず、指数の算定に用いる引張強度ftk(t)について混乱が生じていた。
割裂引張強度は供試体強度であるために構造物中の引張強度とは相違する。構造物のように寸法が大きくなると供試体よりも欠陥の確率が大きくなり、いわゆる寸法効果等により供試体強度の方が大きくなるのが一般的である。コンクリートの構造物中の引張強度は割裂引張強度の0.8倍程度しかないというのが通説である。以降で説明するとおり、この大きさの違いが、これらの使い分けが重要になる理由である。
また基本的な事実として重要なのが、引張強度と引張応力の比であるひび割れ指数が1である時、強度と応力は同一であるのだから、ひび割れが発生する確率は五分五分であり、すなわち50%ということである。注意しなければいけないのは、ひび割れが発生するのは構造物であり、構造物における引張強度と引張応力の比が1の場合にしか構造物中のひび割れ発生確率は50%になりえないということである。すなわち、割裂引張強度を用いてひび割れ指数が1となったとしても、構造物中の引張強度は0.8倍程度しかなく、ひび割れ発生確率は50%にならないのは当然の事になる。
ひび割れ指数の算定に割裂引張強度を用いてひび割れ指数が1.0となった場合、割裂引張強度は一般に構造物中の引張強度の0.8倍程度であるから、構造物中のひび割れ指数は単純に0.8程度となる。ここで、ひび割れ指数は安全係数以上とすることから、図-1で安全係数をひび割れ指数に読み替えて、ある指数の時のひび割れ発生確率と考えても実務上差し支えない。ひび割れ指数の算定に用いる引張強度ftk(t)に割裂引張強度を用いてひび割れ指数が1.0になったとしても、ひび割れ発生確率は50%ではなく、ひび割れ指数の算定に用いる引張強度ftk(t)を構造物中の引張強度とすれば、この場合の指数は0.8となり、図-1に示すように、ひび割れ発生確率は85%程度になる。ひび割れ指数の算定に用いる引張強度ftk(t)に割裂引張強度を使用して、ひび割れ指数を1.0として、そのまま図-1を読んでひび割れ発生確率を50%と判断してしまえば危険側の判断となる。図-1で、ひび割れ指数の算定に用いる引張強度ftk(t)に割裂引張強度を使用すると、ひび割れ指数が1.0の場合に限らず発生確率は全て危険側になってしまう。
平成11年(1999年)制定版のコンクリート標準示方5)における安全係数とひび割れ発生確率を図-2に示す。図-2では、安全係数1.0の時(ひび割れ指数を1.0とした場合とする、以降の文では安全係数をひび割れ指数と同値として、ひび割れ指数に読み替える)、ひび割れ発生確率は85%程度で50%ではない。この理由として、前述のとおりひび割れ指数の算定に用いる引張強度に割裂引張強度を用いるためであることが解説されている。
安全係数とひび割れ発生確率の図の平成8年制定版からの変遷を図-3に示す。平成8年(1996年)制定版では、割裂引張強度を材料係数で除した構造物中の引張強度をひび割れ指数の算定に用いていた事から、ひび割れ指数(安全係数)1.0の時にひび割れ発生確率が50%となっている。ここから、材料係数を外出しにして(使わずに)、割裂引張強度により指数を算出して、ひび割れ発生確率を求める図に変更したものが図-2の平成11年制定版であり、図-3に示すとおり平成8年制定版の曲線を右に、発生確率50%のときにひび割れ指数は1.0から1.25(=1/0.8)程度になるように平行移動している。
混乱が生じたのは、図-3に示す2012年制定版でひび割れ指数が1.0の時にひび割れ発生確率が50%であるのに対して、ひび割れ指数の算定に用いる引張強度ftk(t)に割裂引張強度を用いていた事等に起因している。現在2022年制定版では、前述のとおりひび割れ指数の算定に用いる引張強度は構造物中の引張強度であることが明記されているが、未だにこの使い分けをしっかりできていない場合がある。
寸法効果等により構造物中の引張強度は、供試体を用いた割裂引張強度よりも小さくなることが明らかとなっているが、このことをしっかり理解、留意していないと簡単なミスであるが、発生確率を危険側に判断してしまう。
ひび割れ指数の算定に用いる引張強度ftk(t)は、2022年制定版の以下式に示されるように、圧縮強度から推定する場合が多い。
ftk(t')=0.27fc'(t')2⁄3/γc
制定版毎に相違する安全係数(ひび割れ指数)とひび割れ発生確率の関係図の曲線で想定している引張強度は、このような圧縮強度から推定される引張強度ftk(t')が用いられている場合が多い。同式では、構造物中の引張強度を推定しているものと、供試体の割裂引張強度を推定しているものとが、制定版毎に示されていると考えて差し支えない。すなわち、推定された引張強度は、安全係数(ひび割れ指数)とひび割れ発生確率の関係図に用いる引張強度が、割裂引張強度なのか、構造物中の引張強度なのか、どちらで考えられた図であるかと整合的な値となっている。
一方で、設計者がひび割れ指数の算定に直接、供試体を使用した実験から求めた割裂引張強度を利用する場合には、前述のとおり、安全係数(ひび割れ指数)とひび割れ発生確率との関係図がどちらの強度を前提として作られているかに留意して、これを用いる必要がある。
ひび割れ指数(安全係数)とひび割れ発生確率の図において、ひび割れ指数(安全係数)が1.0の時にひび割れ発生確率が50%であれば、この図に用いるひび割れ指数を算定するための引張強度ftk(t)は、構造物中の引張強度しかありえない。このことをしっかり理解して留意しておけば、どちらの強度を用いるべきか間違うことはない。
1) 2022年制定 社団法人土木学会:コンクリート標準示方書 設計編
2) 社団法人日本コンクリート工学協会:マスコンクリートのひび割れ制御指針2008
3) 国土交通省中国地方整備局中国技術事務所、長生きコンクリートへの挑戦
https://www.cgr.mlit.go.jp/ctc/technology/concrete.html
4) 2022年制定 社団法人土木学会:コンクリート標準示方書 設計編,pp.330-333
5) 社団法人土木学会:コンクリート標準示方書 施工編(平成11年制定),pp.24-36
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