「現場の失敗と対策」編集委員が現場や研究の中で感じた思いや、
技術者に関わる情報を綴っています。
2025/06/02
国土交通省では、2016年より全ての建設生産プロセスでICT等を活用するi-Constructionを推進し、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指している。i-Constructionの推進に当たっては、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」、「全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)」、および「施工時期の平準化」をトップランナー施策として進めている1)。
ここで、コンクリート工における「全体最適の導入」とは、構造物全体として以下に取り組み、サプライチェーンの効率化、コスト削減、生産性の向上を目指すものと考えることができる2)。
① 設計、発注、材料の調達、加工、組立等の一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化が図られるよう、全体最適の考え方を導入する。
② 部材の規格(サイズ等)の標準化により、プレキャスト製品やプレハブ鉄筋などの工場製作化を進める。
このコンクリート工の「全体最適の導入(規格の標準化等)」に向けては、生産性向上を進めるための課題および取組方針や全体最適のための規格の標準化や設計手法のあり方を検討することを目的に、2016年に「コンクリート生産性向上検討協議会」が設置されている。
さらに2024年4月には、i-Constructionの取組みを加速し、建設現場における省人化対策に取り組むため、新たな建設現場の生産性向上(省人化)の取組みをi-Construction 2.0として取りまとめた3)。i-Construction 2.0では、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割進める、すなわち生産性を1.5倍向上することを目指している。具体的には、「施工のオートメーション化」、「データ連携のオートメーション化」、「施工管理のオートメーション化」を3本の柱として、建設現場で働く一人ひとりが生み出す価値を向上し、少ない人数で、安全に、快適な環境で働く生産性の高い建設現場の実現を目指して、建設現場のオートメーション化に取り組むこととしている。
コンクリート工におけるi-Constructionが目指す建設現場のイメージとして、コンクリート生産性向上検討協議会において図-1が提示されている。ここでは、従来方法に比べて、「現場打ちの効率化」、「プレキャストの進化」、「サプライチェーンの効率化」を進めることが掲げられている。
「現場打ちの効率化」とは、鉄筋加工のプレハブ化やプレキャスト埋設型枠の利用により、現場作業の一部を工場での作業にする、型枠撤去などの現場作業をなくすなどの変革である。また、流動性を高めた現場打ちコンクリートの活用により、締固め作業の軽減や打込み作業時間の短縮なども想定される。
「プレキャストの進化」とは、各部材の規格(サイズ)を標準化し、定型部材を組み合わせて施工することで、現場作業の効率化(作業時間の短縮)だけでなく、プレキャスト製品の製造手間の縮減やコスト削減などに繋げるものである。
また、「サプライチェーンの効率化」として、コンクリートの使用材料から製造、運搬、打込み、さらには品質まで含めたデータのクラウド化による関係者間の情報の一元管理(情報管理の効率化)が挙げられている。さらには、画像解析やAIを活用した品質管理、点群データを活用した出来形管理などにより、生産工程(施工や品質の管理)から維持管理段階に至るまでの効率的な情報伝達による効率化も目指すこととされている。
これらの実現を念頭に、コンクリート生産性向上検討協議会において生産性向上に資する様々な検討がなされ、以下のような各種ガイドラインが整備されてきた4)。
∙ コンクリート構造物における埋設型枠・プレハブ鉄筋に関するガイドライン
∙ 流動性を高めた現場打ちコンクリートに関するガイドライン
∙ 機械式鉄筋定着工法の配筋設計ガイドライン
∙ 現場打ちコンクリート構造物に適用する機械式鉄筋継手工法ガイドライン
∙ プレキャストコンクリート構造物に適用する機械式鉄筋継手工法ガイドライン
∙ コンクリート橋のプレキャスト化ガイドライン
∙ 土木構造物設計ガイドライン(平成31年3月版)
以降では、コンクリート工の生産性向上において期待されるプレキャスト化の推進において重要な考え方となる“VFM(Value for Money)”について紹介する。
“VFM(Value for Money)”は、一般に「支払(Money)に対して最も価値の高いサービス(Value)を供給する」という考え方であり、PFI事業の導入適否における重要な判断材料として用いられてきた。
コンクリート生産性向上検討協議会においても、プレキャスト製品と現場打ちコンクリートの工法比較検討にVFMの概念を適用することが検討された。令和6年3月には、「VFMによるコンクリート構造物の工法比較に関する試行要領(案)」5)が公表されたが、これは、コンクリート構造物の設計段階において工法比較検討にVFMの概念を適用し、地域性や現場特性を加味してプレキャスト製品の更なる導入を推進することを目的としている。また令和6年6月公布・施行の「公共工事の品質確保の促進に関する法律等の一部を改正する法律(改正品確法)」においては、発注者等の責務として、「公共工事等の発注に関し、経済性に配慮しつつ、総合的に価値の最も高い資材等を採用するよう努めること」が明記され、これに伴って、令和6年12月改正の「品確法基本方針」にVFMの考え方が導入された6)。
上記の試行要領(案)は、プレキャストコンクリートの施工費が現場打ちコンクリートの施工費に比べ高額となる場合であっても、建設地の地域性や個々の現場条件の違い等の施工費以外の効果や価値を、価格に加えて総合的に判断する必要のある中型~大型構造物を対象としている。また、プレキャスト製品として比較的採用事例の多いボックスカルバートおよびL型擁壁を対象としている。
プレキャスト工法は、一般には、現場作業の軽減(省人化)や工期短縮などの面で有利とされる場合が多い。これに加えて、コンクリートの配合では、プレキャスト工場の方がたとえば高炉スラグ微粉末を多く添加するなどの対応を取りやすく低炭素コンクリートを採用しやすいことから、プレキャスト工法の方が脱炭素の面でも有利な面があると思われる。
詳細の評価方法はここでは紙面の関係で割愛するが、コストのほか、省人化や工程短縮などの効果を評価に組み込むことで、プレキャスト工法を一定の基準に従って採用しやすくなることが期待されている。これにより、図-1で紹介した様々な技術の開発・導入や生産性に資する各種ガイドラインの適用と合わせて、コンクリート工の生産性向上が期待されるものである。
実際に、土木工事におけるプレキャスト工法の活用事例は増えつつある。国土交通省と日本建設業連合会では、「土木工事におけるプレキャスト工法の活用事例集(第二版)」を取りまとめているので、参考にされたい7)。
ただし、プレキャスト工法については生産性向上を実現するためのメリットが多い反面、まだ汎用化に向かう途中段階でもあり、課題も多いものと考えられる。たとえば、以下のような点が挙げられる7)。
∙ 現状では施工経験の豊富なプレキャスト施工業者によって適切に施工されているが、今後のプレキャスト工法の普及に伴って現場施工のノウハウも広く共有化される必要がある。
∙ 現場条件により場所打ちコンクリートと併用せざるを得ない場合には、プレキャストのメリットが半減する場合があるといった指摘がある。
∙ 技術的には、大型プレキャスト部材や場所打ちコンクリートとの併用の場合には、継手部が複雑になる場合がある、性能(防水性や耐久性など)が十分に確認されていないといった指摘もある。
∙ 施工段階でプレキャスト工法に設計変更した場合、プレキャスト工法に適した仮設計画(運搬用道路、施工ヤードなど)への対応が難しい場合が多い。
しかし、いずれも我々技術者が中心となって、官民一体でプレキャスト工法の課題を克服することにより、効率的に良質な社会資本を次代に残していかねばならない。
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