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建設つれづれ窓 シビルエンジニアとして活躍する渡辺泰充氏による建設現場でのつれづれエッセイ

第2回 新社会人諸君!

2016/05/30

新社会人諸君!

ベトナムの現場にて

ようこそ、建設の世界へ。これからの社会資本整備に燃えている人も、新しい生活に不安な人も、期待半分不安半分という人も、まずはこの欄にたどり着いたことにおめでとうと言おう。君たちの周りにこんなサイトがあるぞと教えてくれた先輩や友人がいたか、偶然でもこのサイトを見つけた運があるということだ。出だし快調だ。

その昔、山口瞳という作家が「新入社員諸君!」というタイトルで、毎年4月に洋酒会社の新聞広告を載せていた*1。新入社員がはるか昔の歳になっても、これを読むのが楽しみだった。彼の没後、今では伊集院静がこれを引き継いでいる。

君たちは将来、必ずしも皆がエンジニアとして生きてゆく訳ではない。マネジメントや営業に生きる人もいるだろう。僕は、そういう人たちのベースも技術力であって欲しいと思っている。それが、日本のみならず世界の社会資本の健全な整備につながると思っている。そこで今回は、大作家たちの向こうを張って、エンジニアへの「はじめの一歩」を語ってみたい。

今は研修も終わり、それぞれの所属で仕事を始めた時期だろうか。仕事を与えられたら、とにかく目先のことに没頭しよう。言われたことをちゃんとやろう。当たり前だ。そうすると、自分の勉強不足が見えてくる。もう一度、学校の教科書を開きたくなる。そうなればしめたもの。君は成長の第一歩についた。

建設の世界に限らず、どんな仕事にも決められたルールがある。そして、多くの場合ルールに基づいたマニュアルが整備されている。本サイトにも、マニュアルやコツが数多くアップされている。それらをマスターすることが、まずは第一だ。なに、いきなりすべてのマニュアルを勉強する必要はない。目の前の仕事だけでいい。それはどんなルールに拠っているのか。先輩に聞いてもいいけれど、先輩の邪魔をしてはいけない。せいぜい、「どの本に書いてあるか」くらいで止めてほしい。先輩は忙しいのだ。

だから、給料をもらったらまず、必要な本を買おう。必要な本はたいがい会社においてあるけれど、勉強するなら自分のお金で買わなければだめだ。土木工学は学校で勉強したはずだが、本当に理解するには仕事を通じて考えるのが一番だ。

そして、これからが本題だが、マニュアルをマスターして、やっと半人前だと銘記してほしい。われわれの相手は自然だ。自然はいつも「想定外」で向かってくる。マニュアルを守っていれば責任は逃れられるが、人々の暮らしを守ることはできない。何よりも、マニュアルを超えなければ仕事が面白くなるはずがない。それには、まずマニュアルがどんな根拠(理論、考え方、仮説)に基づいているのかを理解しなければならない。

身近なところから始めよう。例えば、鉄筋の「かぶり」だ。鉄筋はたいてい凸凹している。かぶり〇〇mmと言われたら、どこから測るのか。そもそも「かぶり」がなぜ必要なのか。学校で習ったはずだけど、ちゃんと答えられる人が何人いるだろうか。残念なことに、かぶりの値がはっきりわからない設計図すら、まだ世の中には出回っている。

世界一といわれるわが国の耐震技術も、実情は、地震で被害を受けるたびに発達してきた。それでも、先の東日本大震災では鉄道構造物の被害は驚くほど少なかったし、今回の熊本地震でも九州新幹線は脱線車両を取り除くと同時に再開した。九州新幹線の構造物に大きな被害はなかったということだ。鉄道技術者は、三陸沖地震・阪神淡路大震災での被害を真摯に受け止め、過去のルールやマニュアルを超えてきたということだ。

技術力とは、何が起こるかを予測する力、これに対して計画を立てる力、そして、予測を超えることが起きた時に対応する力の総和だと定義しよう。これらに答えを出すだけの知識と経験と倫理と、知らないことを聞くための人脈が必要だ。それが一流エンジニアの条件だ。それには仕事に没頭するしかない。没頭して、しかる後に静かに振り返ることを繰り返すしかない。それほど容易ではない。時間もかかる。

小澤征爾との対談*2で、村上春樹がこう書いている。

「我々のどちらもが、仕事をすることにどこまでも純粋な喜びを感じている…。音楽と文学という領域の違いはあれ、ほかのどんなことをするよりも、自分の仕事に没頭しているときが何より幸福だ。そして、それに熱中できているという事実が、何にも増して深い満足を与えてくれる」

音楽も文学も、そして建設も、仕事とはそういうことだ。われわれの仕事は、課題が起きて(もしくは起きる前に)、自分で考えて、解決することだ。マニュアルでは答えが出せないことも多い。だから面白い。熱中できるのだ。

そうなれば諸君、この人生、存外楽しいぜ。

*1 山口瞳「新入社員諸君!」(角川文庫)
*2 小澤征爾×村上春樹「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮社)

著者プロフィール
渡辺泰充さん

渡辺泰充:1948年生まれ。1971年清水建設(株)入社。2000年土木技術本部長。2010年同社退職。ベトナム・南北高速道路ホーチミン-ゾウザイ間レジデントエンジニア、2014年東京大学大学院社会基盤学専攻特別顧問、2015年ベトナム・ベンルック-ロンタイン高速道路JICA区間プロジェクトマネージャー。同年末退職。

おもな著作:「疑問に答えるコンクリート工事のノウハウ」(共著、近代図書)、「つれづれ窓」(東京図書出版会)、「サイゴンつれづれ窓」(「橋梁と基礎」連載)、「土木工学実践講座」(非売品、東京大学コンクリート研究室)

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